集合と論理(1)

 高校数学の範疇ではなかなか意識しづらい点ですが、大学で学ぶ数学では、ある特定の性質をもった対象の集まり、即ち集合(自然数全体の集合、1次関数全体の集合など)に属する対象の間の関係として、条件や定理などを論理記号を用いて表現します。日常用いている言語で表すよりも論点が明瞭になり、記述も簡潔になるため、他の単元に先立ち、集合論の基礎に加え論理記号による記法(今後折に触れ用います)も説明します。

集合論における表記、数の分類

 aが集合Aに属することを、aがAの要素(元ともいう)であるといい、a∊Aと表します。
 集合の内容を記述する方法は、集合の要素を列挙する(外延的)方法と集合の要素が満たす条件を示す(内包的)方法の2種類あります。例えば1桁の素数全体からなる集合Aは次のように記述できます:
   A={2,3,5,7}(外延的)
     ={x|xは1桁の素数}(内包的)

 一般に2つの集合A,Bに対し、両方の集合の元全体からなる集合をA,Bの共通部分といい、A∩Bと表します。また、少なくとも一方の集合に属する元全体の集合をA,Bの和集合といい、A∪Bと表します。3つ以上の集合の共通部分、和集合も同様に定義されます。
 Aの元がすべてBの元であるとき、即ちx∊Aならばx∊Bのとき、AはBに含まれます。このときAはBの部分集合であるといい、A⊂Bと表します。複数の集合に関する、このような含む、含まれるの関係を包含関係といいます。共通部分や和集合、包含関係を考える際、関係する集合はより大きいある集合Uの部分集合であると考えます。この集合Uを全体集合といいます。
 全体集合Uの部分集合Aに対し、Uの元でAに属さないもの全体がなす集合をAの補集合といい、Āと表します。共通部分や和集合と補集合の関係はド・モルガンの法則と呼ばれます(次の記事で証明します)。集合どうしの関係を、次の図1のようにベン図で視覚的に表すことがあります。

画像1

 最後に、上の図2について説明します。冒頭で、大学数学では条件等を集合論の記号で表現すると書きましたが、その中でも頻繁に用いられるのが、自然数、整数、有理数、実数、複素数の各々からなる集合です。各々、白抜きののアルファベットで,,,,と表します(各々natural number,ganze Zahl,quotient,real number,complex numberの頭文字です)。この記法を用いると、例えば「aが実数である」を「a∊」と簡潔に表現できます。
 これら5個の集合の間には図2で示した包含関係が成り立ちますが、これは自然数から始まる数の構成方法に由来します。まず、は自然数全体からなる集合、即ち
    ℕ={0,1,2,...}
ですが、四則演算のうち加法と乗法についてのみ閉じています(つまり、自然数の和と積は必ず自然数だが、差と商は自然数とは限らない)。減法についても閉じるように、任意のn∊に対し、nとの和が0になるような数-n(0または負の整数)をに付け加え、拡張した集合がです。更に、除法についても閉じた集合にするために、0でない任意のm∊及び任意のn∊に対し、mとの積がnになるような数n/m(有理数)全体の集合ℚを考えます。ℚはℤを拡張した集合で、四則演算について閉じています。
 一方、例えば√2∉ℚのように、数直線上にはℚの元でない数が存在します。そこで、あらゆる小数表示の数全体ℝを考え、その元を実数と呼びます。ℚの元は整数、有限小数、循環小数の何れかなので、この拡張により循環しない無限小数(無理数)がℚに付け加えられたことになります。ℝ上ではℝ係数の(ℝの元を係数にもつ)任意の1次方程式が解をもちますが、例えばx²+1=0のように、ℝ係数の2次方程式はℝ上に解をもつとは限りません。そこで、2乗して‐1になる数iを導入し、
    ℂ={a+bi|a,b∊ℝ}
とします。ℂの元を複素数と呼びます。ℝ係数の2次方程式が解をもつようにℂを導入しましたが、実はℂ係数の任意のn次方程式はℂ上に必ず解をもつことが知られています(代数学の基本定理)。

 この記事では集合論で用いる記号の説明を中心に行いました。論理記号や、集合と論理の関係は次回取り上げます。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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