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小さな小さなピアノ

 少し記憶の甘くなった母の機嫌のいい日には私は母の昔話の聞き役を務める。
 音楽教師に憧れるピアノ科の女学生だった頃、母は一年先輩のスガノという男と恋仲になった。
 彼は作曲科の学生で数多くの美しいワルツを書いたという。
「ピアノは巧いけど女性の扱いがとても下手な人でね」
 母はそう言ってやれやれと首を傾げるが、今でもスガノという男を愛しているようだ。
 話しながら指先が小さくワルツを刻んでいる。