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東と西のカフェ
この小さな町にある二軒のカフェは町の人たちにそれぞれ東のカフェ、西のカフェ、と呼ばれていた。
それぞれのマスターは互いの店に敬意を払いかち合わないように配慮した。
東のカフェはクラシックを流し、すっきりとしたコロンビアを出した。
西のカフェはジャズを流し、コクのあるマンデリンを出した。
東のマスターが倒れたとき西のマスターは店員に応援を命じた。西のマスターの母親が亡くなった時東のマスターは店を閉め手伝った。
町はいつも平和なコーヒーの香りに包まれていた。
東のマスターが重篤な病に罹った。
自分の余命を悟った彼は西のマスターに店を継いでほしいと頼んだ。
君の好きにしていいから。
この町のカフェに今日も平和な時と香りが流れる。
コロンビアにマンデリンを配合した香しいコーヒー。古いスピーカーは穏やかにクラシックとジャズの両方を奏でる。
西のマスターの姿はない。
後ろ姿がマスターに似た彼の弟子が師匠の遺志(ことば)を頑なに守り続けている。