刀ピークリスマスのテーマソング2023/「吹っ切れた」ストレートパンチ
こちらは2023.12.25に「オシャレになりたい!ピーナッツくん」チャンネルにて公開された楽曲「刀ピークリスマスのテーマソング2023/ピーナッツくん」についての感想記事です。あくまでも感想記事ですので,コーヒー片手に読んでいただけるレベルの記事です。悪しからずご承知おきください。
冗談ではなく過去イチで好きです。技巧派にもほどがある。
序論 母音とジャパニーズミュージック
まずおふざけに付き合ってほしいのですが,「あー」と言ってみてもらえますか?ありがとうございます。次に「いー」です。ありがとうございます。
口の形を意識してもらえるとわかるのですが,ア音は口が開かれていてイ音は口を横に引き発音します。当たり前の話なんですが,何度もこの曲を聞いていくうちにこの2つの音がとてつもないメッセージ性を持つことに思い至りました。ちなみにここからの与太話は絶対に計画してないと思いますし,私自身正直こじつけとも感じています。でも言わずにはいられなかった。許してほしい。それも踏まえた上で読んでもらいたいです。
重要なのは「とうや」と「ディレンマ」です。ア音で終わるなんてチャチな話はさすがにしません。この曲の本質は剣持刀也とのコラボ「刀ピークリスマス」へのアンヴィヴァレントな感情を歌ったものだと私は理解しています。それをどう表現するか?というのがこの曲の妙味だと思うんですが,それが冒頭のア音とイ音なんですよね。
「とうや」の「ア」音に込めた解放の音と,「ディレンマ」に代表される「イ」音での抑え込む感情を音に載せる。サビ導入コールの「とうや」はキモイ要素を載せるための単語のように見せかけた巧妙なテクニックであり,対の「ディレンマ」が活きるための必要なギミックでした。木を隠すなら森の中と言わんばかりのキモイ単語の流れで仕掛けているのでほんとにしばらく気付かなかった。しかもこのギミックかと思われていたコールが最後の盛り上がりへのキーフレーズっていうね。なんなんだよそのセンス。
アンヴィヴァレント(ひとつのものに対する相反する感情の共存)を説明するのは大変難しい。もちろんそれを表現する力が音楽には十分あるんですよね。音楽も物語性を持ちえます。ピーナッツくんはそういうのを大事にするアーティストだと私もずっと思ってはいましたが,まさか母音で仕掛けてくるとは思わないじゃないですか。恐れ入る,とはまさにこのこと。
そこまで考えて、改めて全部の歌詞と音楽の展開に思いを馳せたとき、JPOPというジャンルが歩んできた軌跡に思いを馳せました。それらの楽曲に共通する「歌」としてのストレートさを痛烈に感じる、本当に日本らしい曲であって、それが世界のみんなに伝わってるんだと思うんです。その部分は最後で触れます。
本論 歌詞考察(ただの感想)
もう散々本動画コメントや考察動画さん、感想様などでみなさまが書かれていますので、私としては「言いたいことが、あるんだよ!」というオタク精神で書かせていただいております。ご承知おきください。
「ネックレス」「決戦」「レッテル」「てっぺん」相変わらず韻が固い。ちゃんとTwitterがXになったことの時事ネタにも触れていて刀ピーテーマソングとしてのアイデンティティを守っている。時代の潮流に乗った楽曲を作る意欲を強く感じます。
ネックレスとレッテルも結構深いなと思っていまして,剣持刀也にネックレス,あまりしっくりこなかったんですよね。このネックレスって暗喩だと思っていて,これが後半のシンフォニアにかかってくんのかなって。
急速に拡大していくVtuber市場の中で,男性としては史上3番目に100万人登録者を達成した剣持刀也。膨れ上がっていくマーケットの少し外側から見るピーナッツくんからすると,少し息苦しく見えるのかもな。そう思います。ちなみにてっぺんは顎の隠喩です(決めつけ)。
ネックレス⇒鎖というイメージチェーンなのかなって感じているんです(鎖だけにってね、やかましいわ)。Vtuber剣持刀也はANYCOLOR製のきらびやかなネックレスでもあります。同時にANYCOLOR自体がネックレスになっている部分もあるのかな。その相互関係を「シンフォニア」などのフレーズにも歌っている気がします。
「外せ」「年に一度の決戦」は一人のVtuberとしての対峙を望んでいるのでもあるし、そんなネックレスがなくてもいいものが作れるぜ、という相手の力への信頼も感じます。刀ピークリスマスはでかいイベントというより、二人とその友達による学芸会的な部分があるんですが、そのクオリティって「最初のVtuberらしさ」なのかもなって思ってるんですよ。手作りでばかばかしくて突飛で、「でもこいつらおもろいな」っていう。
「犬系彼女」「アイドル」などの時事ネタを差し込みつつ、ここでは脚韻にエ音をこれでもかと言わんばかりに叩き込んできます。聞いてて気持ちいい、人によっては歌ってて気持ちいい音の落とし方なのはこれが原因です。だんだんスピードが上がっていくのもポイントです。
個人的にうなったのは 「ちぐはぐな心 ふあんてい」で少し韻をずらしてからの「そんなん言ったって」で中に韻を置いてからの「ベッド」、すぐさまI don't careで畳み込んで「どうせ今晩も」でぶった切ったかと思いきやコーラスのNightmareで歌ってすらいない韻を聴く人にイメージさせる、この一連の流れです。「ろふまおやめて」の伝統芸能の陰に隠れてなんかテクいことやってのけてるんすよ。
サビ前のこの曲調変化は槇原敬之を彷彿とさせます。そしてこの槇原らしさってサビに対する期待感を極限まで高めるんですよね。これはJPOPらしさ、とも呼べるんじゃないのかなって感じています。Ofiicial髭ダンディズムとかはその流れを綺麗に汲んでいるバンドです。曲展開に関してはJPOP部分を意識的に作っていると思うんですよねえ。じゃないとこういうエモさって独力ではなかなか出せないはず。
この爆発力よ。韻とかテクさとかを緻密に組み上げておいて、全部ぶっ壊す「好きだよ」の力強さ。すべてはサビの歌詞のストレートさを際立たせるためでした。JPOPに悲しくも散見される歌詞の薄っぺらさなど微塵もありません。戯曲的にロマンスを歌っているという点では薄っぺらいかもしれないですが(笑)、その戯曲の重厚さで名作かどうかは決まります。「刀ピークリスマス」という大きなストーリーの歌としての強さをひしひし感じています。「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」とまではいいませんが、そういう感じです。
そして曲全体のテーマでもあるDilemmaは刀ピーとしての相方、剣持刀也への愛を語らうときの2つの感情を描写している。これは自明ですよね。わかりやすさ、は刀ピーテーマソングで意識しているんじゃないかな、って勝手に思っているんですが、同時にこの曲はピーナッツくん自身が担当しているテーマソングに対するアンサーのような気がしています。
2021、2022と大ブレイクと言っていい再生数の伸び方をし、2023何をかましてくれるんだ、という期待はとても大きかった。特に2022は2024年末時点でもVtuberオリジナル曲としては上位10位に入ろうかという回数です。(総合で考えるとロリ神とビビデバがえげつなさすぎる)
さて2023は、バズなんか知るか、と言わんばかりのストレート求愛ソングでした。「そうだよな、これって刀ピーのテーマソングだったよな」って思わされましたね。バズ的な要素はテクニックで残しつつも楽曲としての完成度でキモさを上塗りしていく(なくなったとは言っていない)、このスタイルこそが「刀ピー」だったよなと。楽曲としてはDilemmaを乗り越えた一つの形だと思っています。一番合う言葉は「吹っ切れた」でした。
2023は当初再生数はさすがに伸びないだろうなと思っていたんですが、2024年末時点で2021と比肩するところまで来ています。すごく好きな曲なのでみんながちゃんと評価してくれているような気がしていてとてもうれしい。みんな見る目あるじゃん。
恒例のキメえゾーンでもあるんですが、最初のイ音の決め方がイカれてて最高でしたよね。頭韻と脚韻を全部イにして、さらにフレーズは固有名詞が持つイメージの連鎖を全部悪い方につないでいく感じ。2020を思い起こさせるスキルと発想。
それだけでは飽き足らずの後半は脚韻をア音で開放しつつ、音節が長くなるポメラニアンでは「ラ」の音で韻を踏むことで自然なブリッジを決めていきます。意味が自然かどうかは論点が分かれると思います。パイの実の解釈は一応ありますがキモすぎたので記述不可です。
「カメラロール」は現代的な名詞です。こういう単語を曲に組み込むのほんとうまいよなあ。Bサビの「薔薇」と「罪を許される」というのも連想のブリッジで、2022の流れを組み込んでいます。
Cメロでこれ持ってくんのかよエモすぎるだろいい加減にしろ。
配信当時、この部分に関して刀也くんがこの部分に対しては強く否定しなかったんですよね。刀ピーのスタート。この楽曲は「刀ピークリスマスとは」という問いに対するアンサーです。楽曲が流行るにつれて起こっていった変質に対しての明確な答え。そして、2021から2022にかけてのうす暗い感情への決別でもあります。dilemmaはdilemmaのまま、ただその愛だけは確実なものとして進んでいくんだなと感じました。そして剣持刀也は剣持刀也のまま、彼の中のdilemmaを抱えて進むことへのエールでもあるのかもしれません。
キモいコーラスからの刀也ハウリング。そしてなだれ込むラスサビです。お前JPOPほんとは好きだろって思ってます。じゃねえとそんなJPOPの良さ出せねえよ。この曲をたった1人のために作ってるってんだから本当にどうかしてる。いやほんとはそれが正しいのか。子守歌しかり、誰かが誰かのために歌うもんだよな。以下それについて触れて終わりにいたします。
結論 歌は言の葉の乗り物
本論のところでJPOPがどうたら言っておりましたが、別にJPOPとはという話がしたいわけではないのです。ですが韻の踏み方しかり曲展開しかり、様々な箇所で日本語のメッセージを強めるための工夫が見られます。それは日本語が歩んできた歴史の轍をなぞって進む作業であり、和歌から伝わる心がけそのものだよな、とも感じるわけです。技法や流行りの曲調は戦前戦後を問わず絶えず変遷してきましたが、「気持ちをフロウに乗せる」のは観察できるだけでも1500年ほど前から続いています。
感覚的な話で申し訳ないんですけど、すごく和歌っぽいなと思っていて。JPOPみたいな大衆受けする(言い方悪くてごめんなさい)要素を盛り込みながらも、平安の香りがするっていうか。思い出を語ったりとか愛の語らいを書き綴ったりとか。ほわっとした言葉だけでごまさかない、二人だけがもつ符丁で伝えようとするところとか。
dilemmaも本当は符丁であって、本当はVtuberとしての悩みだとかを仲間内で打ち明けていたりするのかも。そういう部分に対しての「ピーナッツくん」としてのスタンスの表明であるのかもしれない。すべては憶測ですが、そこも和歌っぽいんですよ。
作品群としての「刀ピークリスマスのテーマソング」はキモさやキャラクター性、配信上の二人の関係性とのクロスオーバーがあり、それを全部包含できる楽曲のクオリティがみなさんに認められていると思うのです。
でもそれらは要素であって前提ではないんですよね。前提は「ピーナッツくんが剣持刀也に年に一回送る曲」です。その前提に真っ向勝負してきた曲が2023です。それは結果としてピーナッツくんが改めて刀ピークリスマスを再定義する形になったのかな、とも感じます。
2024年12月にMOROHAが解散しました。世の中は無常である、とはいいますが、それぞれに思いや先があって決断するのだと思います。それでも刀ピークリスマス、2024もやってくれるんですって。
これの脱稿が12月25日。本日、刀ピークリスマス2024が配信されます。
断言します。今年も絶対にいい曲ですよ。
長文駄文大変失礼いたしました。読んでいただき大変ありがとうございます。