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【本】『火蛾』 2024.02.25

 舞台は十二世紀の中東。登場人物はムスリムたちで、主人公はスーフィー。しかも著者は日本人。昨年の春、刊行から二十三年の時を経て、遂に文庫化されました。気になりますよね。遂に読んでみましした。

火蛾/古泉迦十 講談社文庫

 面白かった。いくらでも賛美の言葉をかける。
 ヤバい。
 すげー。
 ドープ。
 こんな抽象的な言葉しか出てこないのは、なにが面白いのか、自分でもまだよく嚙み砕けないのだ。そう、これは、初めて『エヴァンゲリオン』を観たときの感覚と似ている。
 よくわからない要素と、わかりやすい要素が混じり合い、結局よくわからないままストーリーが進んでいき、先の展開が気になってずっと観ちゃうのが『エヴァンゲリオン』。エヴァはキリスト教がエッセンスとなっていたが、『火蛾』はイスラムの教え、スーフィズムの修行を根底にストーリーが展開していく。メフィスト賞受賞作ということもあって、ミステリー要素を持つ作品ではあるが、幻想文学的な要素も持ち合わせているし、謎解きには宗教的な要素が色濃く反映されている。
 こんな書き方をすると、なんか難しそうだなって嫌厭されるかもしれないが、文書は平易で、小難しい言葉遣いもない。それでいて巧みに宗教的な知識が織り込まれているので、誰でも読める。基礎知識がなくても物語に置いていかれることはないし、むしろ、先へ先へと読み進めてしまう。終わり方も良かった。
 謎解きやドンデン返しで読ませる小説ではないので、何度でも読めるし、読むたびに新たな気づきがありそうだ。
 こんな小説が日本国内で生まれたなんて、信じられない。ぜひともイスラム教徒にも読んでもらって、リアルな感想を聞いてみたい。ムスリムの間で好評なら、アラビア語、トルコ語、ペルシャ語、ウルドゥー語などに翻訳して世界へ。そんな夢を抱かせてくれる小説でした。

クダー・ハーフィズ!


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