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【本】『イスラム飲酒紀行』 2024.02.18

 イスラムの教えでは、アルコールは厳禁。ムスリムじゃない私でも知っている。日本国内にあるハラル・フードの飲食店でも、お酒を出さないお店も多い。
 そう、「多い」のであって、必ずしも「絶対に酒は出さない」というわけではない。ハラルのお店だけど、お酒がメニューに載っていたりもする。ムスリムの従業員がお酒を飲んでいる姿も見たことがあるし、トルコ料理店には必ずといっていいほどトルコ・ビールがある。トルコだってイスラム教の国なのに。
 そんなイスラム教とお酒の事情がよくわかる、高野秀行氏の『イスラム飲酒紀行』を読みました。

 お酒が大好きな冒険家の高野氏。旅先がたとえイスラム国家でも、お酒が飲みたくなってしまいます。なんとかどうにかお酒が飲めないものか、現地の人にうまく取り入り、その目的を達成するのです。
 訪問先はパキスタン、アフガニスタン、イラン、シリアなど。比較的お酒がすぐに見つかるところもあれば、なかなか飲めないところも。結果、どこでもお酒は飲めるのですが、その道中の過程や、現地の人と共に酒を飲み交わすことで、市井のイスラム教徒の酒事情がみえてきます。
 イスラム教徒には「本音と建前」のようなものがあるようで、人前では酒を飲まない、ということにはなっているが、やっぱりお酒は好き(な人もいる)。飲めるなら飲みたい。戒律があって教義があって、法律もあるし人目もあるし、そんな中でもやっぱり飲酒は楽しい。それを、なんとなく周りも許している。なんだかイスラム教徒が愛らしくみえてきます。
 そう感じられるのも、高野氏の文章の巧さあってのこと。易しすぎず難しすぎず、思わず笑っちゃうところもあれば、新たな気付きを与えてくれる。グイグイと読み進めてしまう魔力を持った文章です。
 ページを捲る楽しさ、そして、イスラム教への新たな見識と親しみを与えてくれる、素晴らしい読書体験でした。
 しかし、この本を読むと飲みたいお酒が増える。ヤシ酒、ラク(葡萄の焼酎)、シリアのワイン、どれもこれも美味そうだ。そう、私も高野氏と同じくお酒好き。だからたぶん、ムスリムにはなれない。

クダー・ハーフィズ!


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