インドのコロナ致死率、実は日本より低かった・・・経済はV字回復?
各種報道で周知の通りインドでは現在、アメリカ、ブラジル同様に新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大が続いている。
インド政府は今年3月25日、日本政府より先行して厳格なロックダウン(都市封鎖))に踏みきった。当初は封じ込めに成功していたが、出稼ぎ労働者を感染が広がりつつあった都市部から地方に強制退去させたことで全国的なパンデミックの一因に繋がってしまった。
10月28日現在までの累積感染者数・死者数は図1の通り米国に次ぐ規模で、数字だけを見るとインドの感染状況は医療崩壊が起き、死体がそこら中に転がってるような凄惨なイメージを持ってしまうかもしれない。加えて公衆衛生意識の低さや医療インフラ等の脆弱性のイメージが先行すればなおさらだ。
図1 日本経済新聞 チャートで見る世界の感染状況新型コロナウイルスから 転載
但し、メディアが連日連呼する“感染者数・死亡者数”のみに着目すると、コロナの実際の被害状況は見えなくなる。冷静に考えれば、人口が多ければ、感染者数も多くなるのは当り前だからだ。加えてインドは行政が積極的にPCR検査を行っている為、必然的に陽性者数は増加する。
図2は各国のPCR検査数(1000人/1日あたり)を比較したもので濃い緑色の国ほど検査数が多いことを示している(10月16日時点)。日本は17%(170人/1000人 )、インドは79%であることからも感染者数は必然的に増える。
図2 Our World in Dataより転載
だが致死率で見た場合、インドは日本同様、新型コロナウイルスと“うまくつきあっている”と言えるだろう。
■コロナの致死率では優等生のインド 全面的にロックダウン解除へ
今春、コロナが猛威を奮ったイタリアの致死率は8.4%、これに対して日本は1.8%、インドは日本より低い1.5%だ(図3参照)。これまでの各国の状況からわかることは、致死率が高い国(2%以上)では、ほぼ間違いなく医療崩壊が起き、重症・軽症者のトリアージが機能せず死亡者数が爆発的に増加していることだ。
図3 日本経済新聞 チャートで見る世界の感染状況新型コロナウイルスから 転載
世界の公的機関等が出すデータを冷静に見れば、“感染者数増加=致死率増加”ではない、という事実につきあたる。インドの致死率が低い根本的な原因として挙げられるのが、13億という人口の半数以上が30歳未満という年齢構成にあるだろう。コロナの特徴として、高齢者は特に重篤化しやすいのは周知の事実だ。(図4参照)
図4 Our World in Dataより転載 年齢毎の各国の致死率
また、インドではPCR検査の積極的な実施の他、官民一体となって導入している感染対策や感染者の追跡アプリ等の迅速な情報開示、日本のマイナンバーカードにあたるアダール(※)と呼ばれるデジタル化されたIDカードの普及で入退院や給付金手続きの迅速化等、情報インフラがコロナ対策に大きな役割を果たしている。
※ アダール/アドハー(Aadhaar)
インドはこれまでロックダウンを段階的に解除してきたが、10月15日以降、地下鉄等の交通機関、学校や娯楽施設の営業再開を含む活動制限がほぼ全面的に解除されている(※1)。
※1 インドは米国同様、連邦制の為、州政府によって活動制限解除の条件にはバラツキがある
■コロナ不況からの脱出 21年度GDP成長率は世界1位の8.8%か?!
現在、世界はコロナ禍による‟100年に一度”と言われる深刻な不況下にある。6月と10月に発表されたIMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」では20年度のインドGDP成長率は-4.5%(6月見通し)から−10.3%(10月見通し)と大幅に下方修正されいる。多方、21年度は先進国、発展途上国の中で群を抜いた8.8%という極めて高い成長率を予測している。
図5 IMFから転載
日本同様にインドでは特に旅行やエンターテイメント、飲食業等が深刻な不況に陥っているが、為替や株式等のマーケット視点で見ればマクロ経済的には十分に持ちこたえていると言えるだろう。背景にはインド政府の積極的な財政出動や中央銀行による金融緩和政策が功を奏しているからだ。
消費面では、9月の乗用車販売台数は前年同期比で26.5%(※2)と大きな伸びを示しており、消費マインドも旺盛だ。加えて、10月以降インドでは消費が伸びるヒンドゥー教の祝祭シーズンに突入する。特に自動車や家電等の耐久消費財の需要が伸びるシーズンであるため、V字回復へのスターターとして期待されている。
※2 インド自動車工業会(SIAM)の発表による
さらに、GAFA等の大手外資による大規模投資も行われており、一部メデイアが扇情的に報道するような無秩序な状況には至っていない。
コロナ禍ではあらゆる事が不確実だが、一つ確かな事は、世界の脱中国という大きなシフトチェンジの流れは変わらないだろうし、今後、増々加速するだろう。特に安全保障や貿易、サプライチェーン等の面でインドは大きなカギになりうる。前述したIMFの21年度GDP予想8.8%は、こうした世界情勢の大きな変化も織り込み済みでの値だと考えられる。
当サイトでは今後、巨大な可能性に満ちたフロンテイア市場であるインドの人々の思い、経済、スタートアップ情報等を“日本のこれからの歩み”の参考にできればと思い、出来るだけ横文字を使わず、噛み砕いた言葉で鋭意紹介してゆきたいと思っています。
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