お鼻と私の物語 vol.2

それから
朝・昼・晩
数粒ずつ薬を飲み
数週間おきに薬をもらいに行くことが
私の生活の一部になっていた。

数ヶ月経っても
薬を変えてもらっても

鼻水の生産をやめない自分の鼻に
しびれを切らせた私は
病院を変えることにした。

声は鼻声
鼻から全て出なくなって
喉の奥に流れる[後鼻漏]が始まった。

私のお鼻さんは仕事をやめた。

夜寝ていても喉の奥に流れる鼻水。
常に鼻は詰まっているが、
排出される鼻水のほとんどが
お鼻さんを通過することがなくなった。

常に痰が絡まり、湿った咳が止まらない。

横になると喉に痰が絡まり
眠れない日が始まった。

決まって 日付が変わった朝方に
痰が分泌されるようで
喉に詰まった痰のせいで呼吸ができなくなり
むせながら目が覚める。

このままじゃ
痰に溺れて死んでしまう。

眠れない。

咳が止まらない。

そんな日々が2週間以上続いた。

睡眠不足で頭は働かず
免疫力が落ちたせいか
ますます咳や痰が酷くなる。

そして気付いた時には
嗅覚を失っていた。

ご飯を食べても、何の匂いもしない。
食と嗅覚がこんなにも密接に関係していたとは思いもしなかった。

今まで匂いの粒子が
脳に到達して初めて匂いを感じるなど、
そんな事を気にした事なんてなかった。

大好きな食べ物を食べても
何を食べているかわからない状態になってしまったのだ。

このままではいけない。

職場を含め、色んな人から心配され
たくさん病院を紹介してもらった。

なんとか、匂いを取り戻したい。

福岡県内の某耳鼻科が
すごいという噂を聞いた。

すぐに休みをとって、
1日待つつもりで病院に向かった。

すごい人気だった。

私は病院が開く前に
1番に受付ができるように
1時間近く前に病院に着いたが
すでに10人近くの人が
受付を済ませていた。

自分の順番が来るまで
かなり待つのかな〜なんて
ぼんやり考えていたら
自分の名前が呼ばれた。

診察室に入ると
診察台の手前に丸イスが
5つほど並べられていて
診察台が丸見えだった。

どんどん進み
前の人が減っていく中で
嫌な予感がした。

丸見えの診察台で
男女共に苦痛に歪む顔が
目に飛び込んできた。

診察を受ける前からビビってしまった。

"いつから匂いを感じてませんか?
先に処置するので、終わったらレントゲンとろうね〜"
と、ゆっくりとした話し方とは対照的に
色んな器具が私のお鼻さんを出入りする。

ついに。

キターーーーーー!!!

これが、あの苦痛の原因か。

細長い針金の先に少量の綿が巻かれ
その先になにかの薬がついているのだ。

その薬が鼻の奥深く、
これ脳みそでも触ってんじゃないの?
って聞きたくなるぐらい
奥の方をチョンチョンしたのと同時に
痛みで顔が歪む。

両目から涙がこぼれ落ち声にならない。

今動いてはいけない。
本能がそう言っているのだ。

"匂いわかった〜?"

涙で前が見えないが、
必死で答えた。
"今、一瞬わかりました。"

"今匂いがわかる所を直接触ったからね〜♪
まだ嗅覚は死んでないね〜♪♪"
と、お医者さんのコメント。

いっそのこと殺してください。と言いたくなるほど痛かった。

その後レントゲンを撮り、
鼻の奥の空洞に鼻水が溜まっている事がわかり、原因を調べるためにいくつかのアレルギーテストを行なった。

薬が数種類出され
2週間後にアレルギーテストの
結果を聞きに来るように
言われ、私は病院を後にした。

2週間後、
再度病院に行ったが

身体中が治療を拒否していた。

二度とあんな痛い思いはしたくない。

咳や痰は相変わらずだったが
あの痛みに耐える勇気がなく、
アレルギーテストの結果を受け取り
先生に謝罪し治療を受けたくない旨を伝え
病院を後にした。

このまま咳が止まらなくても、
今がMAXでこれ以上酷くなる事はないだろうと、嗅覚を失っても、死ぬ事はないだろうと治療が優しい先生を探すことにした。