佐藤寿也くんについて真剣に考えたら悲しくて死んだ。
先に書いとくけど私は腐女子ではない。
あまりボーイズラブは読まないし、興味もない。
別にそういう楽しみ方をしてる人がいてもいいと思ってるけど、見にはいかない。
腐女子は私にとっては生活音は聞こえてくるから存在は認識してるものの、面識はない隣人というようなものだ。
ここまでは前置き。
最近アマゾンプライムで全話見れるのでメジャーを見直してるんだけど、佐藤寿也氏から目が離せません…助けてください。
メジャー読んだことある人ならわかると思うんだけど、本編は吾郎の人生を通して描いていて、我々読者はついつい吾郎の境遇に目がいく。
5歳にしてすでに母を亡くしているのに、最愛の父をメジャーリーガーの放ったデッドボールによって失い、義理の母親に引き取られる。
さらにその義理の母親は父親のかつての親友と結婚して義理の父親となる。
星野桃子と本田吾郎、茂野英毅の他人だった三人が戸惑いながら家族になっていく物語は見ていて胸が温かくなる。
悲劇のヒーロー、生まれながらのサラブレッドであり才能がある吾郎に目が釘付けだ。
しかし、我々は見落としている。
吾郎の理解者でありライバルである佐藤寿也のその境遇の悲惨さを。
幼い頃は典型的な教育ママの元ガチガチに統制されて生き、それでも名門横浜リトルというリトルリーグでレギュラーを勝ち取ったのもつかの間、修学旅行から帰ってきたら家はもぬけの殻。家族に捨てられる。
母方の祖父母に年金を切り崩し、弁当屋でアルバイトをしながら育てられる。
そしてそんな祖父母の姿をみてプロ野球選手になって恩返しをすると心に決める。
ねえ、主人公寿くんの方が良くない?
吾郎は確かに両親を失ったものの、義父母には溢れるばかりの愛を注がれ、父親になった男は球界の大エース。
経済面でももちろん苦労なんてしたことがないだろう。
はっきり言って温室だ。
いつも祖父母の懐事情と、この世にいるのに自分を捨てた両親のことを思いながら育った佐藤寿也。
だからこそ、作中ダーティーな言動や病んでいる様子が描かれる。
幼少期豊かな家で教育ママのスパルタ教育を受けていたからどんな境遇であれ物腰の柔らかさと育ちの良さを失わない佐藤寿也。
しかしこういう場面が作中にばらまかれることによって我々の中に「佐藤寿也はやばい」「怖い」というイメージを植え付ける。
そう、佐藤寿也はなぜ怖いのか。なぜ我々は佐藤寿也に違和感と闇を感じてしまうのか。
それは彼のアンドロイド的完璧さに起因してる。
完璧な社交性と、いつも冷静な態度。
どんな場面であれ佐藤寿也は為すべきことを淡々と為す。
礼儀正しく、最良の行動をとる。
チームメイトとの関係も業務連絡や、必要最低限の会話しかない。
その時も冷静で穏やかな笑みを崩さない。
そんな完全無欠の佐藤寿也が唯一みっともなくなって必死に言葉を紡いで執着してるのが主人公の茂野吾郎なのだ。
ポイントは彼が執着しているのが茂野吾郎である、というところだ。
茂野吾郎。
こいつもまた頭がおかしい。
こいつの頭の中には野球しかないのだ。
より強大なライバルを求め、それによってエキサイティングな挑戦をすることにしか執着していない。
故にその目的のためならば苦労して手に入れたものをあっさり捨てるし、将来なんて考えちゃいない。
目の前の試合のために彼の右肩はお釈迦になったし、海堂との試合のために危うくプロ入りもおじゃんになるところだったのだ。
作中輝かしい実績を残し続ける吾郎だが、なぜかいつも逆境に置かれていて作中でスカウトやマスコミから注目されてはいない。
対照的に佐藤寿也はいつも吾郎より一歩上のステージでマスコミやスカウトに追い回されて順風満帆に生きているように見える。
ここから私の妄想が始まるんだけど、この状況がとにかく私は切ないんだ!
佐藤寿也という人間は作中いつも一人ぼっちなのだ。
吾郎は逆境に置かれてもいつも楽しそうだ。
傍らにはまず家族。そして、彼の野球を彩る個性的な仲間たち。
三船リトルに、三船中、聖秀高校の仲間たち。
イバラ道を選びながら進む吾郎はいつも素晴らしい仲間に恵まれ、佐藤寿也のことなんて頭にない。
目の前の仲間と勝負に夢中なのだ。
吾郎の頭の中が佐藤寿也でいっぱいになるとき。
それは佐藤寿也が吾郎にとって挑戦して勝ちたいと焦がれるようなライバルになる時だけ。
故に佐藤寿也は常に吾郎に追いかけられるための強力なライバルでなければならないであらねばならない。
それだけが佐藤寿也が吾郎の頭の中に居場所を得るための方法なのだ。
そして、逆境とエキサイティングな挑戦をする吾郎にとって図らずも佐藤寿也はあまりにも心強い味方で、いつも倒されるライバルとしての位置付けを余儀なくされ、仲間という位置付けになることは叶わない。
しかし佐藤寿也の願いは、現実と裏腹に吾郎と同じチームでそばで戦うことだ。
これは佐藤寿也が作中なんども口にしているから間違えないだろう。
しかしその願いはいつもいつも寸断される。
追い求めて血の滲むような努力をして吾郎のためならホームランだって何本でも打ってみせるのに、吾郎は次の挑戦を見つけたらあっさりと新しい挑戦に手を伸ばしてしまう。
作中、吾郎と寿也が一緒にいるシーンがなぜか美しく見えるのは、吾郎といる寿也くんが本当に幸せそうで、でも長続きしないことが我々読者にもわかるからなのだ。
そう、吾郎と寿也が一緒にいるのはいつも吾郎が次の挑戦を見つけるまでの短い時間だけだ。
特に印象的なのは聖秀編。
吾郎は田代というキャッチャー始め素晴らしい仲間と海堂戦までたどり着き、作中屈指のこの名シーンである。
このシーンは泣いたよ私は。
よせあつめの10人がチームになりお互いがお互いを信じあう関係になれた証明とも呼ぶべきこのシーンは最高だった。
泣いたんだけど、佐藤寿也は多分こんな風に吾郎の仲間になりたかったんだ、ずっと。
だから、佐藤寿也らしくもなく田代に嫌味を言う。
あの完全無欠で聖人君子(にみえる)な佐藤寿也が、こんな嫌味を吐いて人間味を出してくるのも吾郎絡みだからこそのお話。
ああ!こんな綺麗で冷静な顔して、心の中はきっとぐちゃぐちゃだよ。
田代のいるポジションは本来なら佐藤寿也のものなんだから。
吾郎が海堂を去ったその日から、佐藤寿也は1人に戻った。
そして吾郎は自分のことなど一旦忘れて野球と挑戦を追い求めて新しい仲間を手に入れ自分に牙を剥きにくる。
吾郎に忘れられないためには吾郎と同等かもしくは秀でたプレイヤーでなければならない。
しかし、そうなることで吾郎にはライバルと見られ仲間になることが叶わない。
佐藤寿也の抱える二律背反。
そして、佐藤寿也も自分が吾郎の執着の対象になれない自分にとって残酷な現実を痛いほど理解しているのがまた切ない。
吾郎にとって野球が執着対象ならば、
寿也にとって野球は己の執着対象である吾郎の視界に入るための手段のように見える。
もちろん、寿也なりの野球に対する熱い想いはあっただろうが、メジャーセカンドにて吾郎の息子になぜキャッチャーになったのかと質問された際に、
「取りたい玉にであったから」
と答えた佐藤寿也。
無論それは茂野吾郎の放つボールな訳なのだけれども。
佐藤寿也にとっての野球根っこのところにに茂野吾郎があり、茂野吾郎と野球を切って考えることはできない。
佐藤寿也のことを考えると、なぜか切なくなるのは佐藤寿也がいつも1人であること。
そしてその佐藤寿也を1人ではなく2人にしてくれる茂野吾郎という存在があまりにも身勝手で安定しないものなのだけれども、佐藤寿也は吾郎によってしか幸せになれないからだ。
吾郎と一緒にいる瞬間だけが佐藤寿也を嫌味も悪口もいう人間にし、吾郎のために佐藤寿也は江頭に歯向い心からの正義感を発揮できる。
佐藤寿也は吾郎によって封印されてる人間らしさを取り戻すことができるのだ。
だからね、やっと同じユニフォームをきて優勝というエンディングまで吾郎と一緒にいることが出来た佐藤寿也のこの表情を見て欲しい。
「よ、よかったね…(号泣」
私はこのポスターだけで小一時間涙が止まらなかった。
本当に本当に幸せそうな顔をしている。
多分佐藤寿也はこの瞬間を心に留めて永遠にして生きていけるんだと思う。
吾郎は両親を亡くしても、自分を実の子のように思ってくれる大人にめぐり会い、どんなにチームメイトや環境が変わっても素晴らしい仲間に出会える。
そして幸せな家庭を築き上げる。
しかし佐藤寿也は、いつも1人なのだ。
やっと手に入れた家族も妻との離婚というバッドエンドを迎えている。
だから、メジャーというこの物語は、吾郎の青春と成長と成熟を描いた話だとわかっているのだけれども。
佐藤寿也の長い長い片思いの話にも見えるのだ。
吾郎によって野球と出会い、吾郎を追いかけることで超一流プレイヤーに成長して、それでも一番欲しいもの一番叶えたいものには絶対にたどり着くことができない佐藤寿也。
だからこそ佐藤寿也は危うく悲しく闇があって美しくて完璧なのだ。
吾郎以外に執着する対象がないから、菩薩のように他のことには無欲でいられる佐藤寿也。
ああ、考えれば考えるほど報われなくて悲しい男、佐藤寿也。
多分彼にとって一番幸せだった海堂高校での一年半のこと。
吾郎と最も一緒だったあの一年半。
吾郎と同室でいつも一緒にいれたあの一年半がどんなものだったのか妄想し始めてしまうんだけど、いよいよ腐女子になってしまいそうなのでこの辺でやめておく。
ここまで佐藤寿也について書いて見たけど、私は吾郎のキャッチャーや仲間という意味では一番好きなのは田代です。
寿くんごめんな。
作中唯一熱血度合いで吾郎に勝ってた田代がやはり至高なんだよね。
すまん寿くん。
以上!
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