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週末の余談 雑記


 2021年9月に東京オリンピック・パラリンピック競技大会も終了して2年を経過したことでもあり、内部向けに発信していたコラムを今回、本noteに12回にわたって投稿した次第です。原稿そのものは12回分手元にありましたが、noteの特性やシステムを完全に理解せぬまま右顧左眄しながら見切り発車したのが実状でした。当初、コラムを読んでいただきながらコミュニケーション出来ればと考えておりましたが、私の誤解がありご迷惑をおかけしたかもしれません。それを可能にするためには、コメントを受け付ける設定を私がしなければならないことに、先日気付きました。失礼しました。 この投稿欄ではコメント受付設定しますので、12回分まとめてご感想やご意見等ございましたら、何なりとご発信ください。

 私は、これまで数多くの国家的プロジェクトに関わって参りましたが、「オリンピックは関わることは無いな」と自分自身考えておりました。ある時官僚の友人から『チャンスがあるなら関わるべきでしょ、関わったら』、という“ひょんな”一言から私も徐々にその気になり、2019年4月末に“まさか”の組織委員会への着任となりました。
 着任前の面談で、私は「開催までの日程を考えるとタイミングとしては実施計画が策定されていると思うので目を通せば、ある程度状況が把握できると思う。」と述べたところ、曖昧な反応でいぶかしく感じました。
 経済産業省所轄の社団法人 日本イベント産業振興協会において「イベント業務管理者」資格試験を実施しており、私は資格試験委員会の委員を委嘱されておりました。本試験は、イベント業務に関する知識及び技能を習得していることを認定する主旨で実施されておりました。委員会の性質に鑑み、委員就任や討議事項については、外部には秘扱いであったことは言うまでもありません。事務局職員(電通OB)の方より最初に依頼があった際に、私には任が重いと躊躇しておりましたら、別の職員(博報堂OB)の方から連絡があり、重ねての依頼でもあったので引き受けることにしました。良く調べられていて、私の多方面にわたるイベント経験や新規のイベントの立ち上げに携わってきた経験、若い委員をメンバーに加えたい意図があったようです。確かに他の委員は業界の重鎮の方ばかりで、委員会である方が試験問題案に「観客導線」と書かれていたので、私は「現在の当用漢字では、“動線”の表記ではないか、デパート等で慣例的に導線と使ってはいるようですが・・・」と述べたところ、「以前から我々は導線と使ってきた」という一言と他の重鎮の方々からも「その通り」という同意の言葉で議論にもなりませんでした。そんな雰囲気の委員会でしたが、議論内容は様々な観点から意見交換して充実していたと思います。
 イベント業務のカテゴリーとして、「博覧会」「会議イベント」「見本市・展示会」「文化・スポーツ」の4分野に分かれており、8名の委員により試験問題案や解答案の作成、試験後の採点を実施。また、4分野のテキストが出版されていましたが、試験問題にも関わることでもあり、テキスト内容に関する議論も合わせて行っていて、業界の状況を議論する場となっていました。実は、その度ごとに話題になったのが、他の分野と比較して「文化・スポーツ」の内容の薄さで、未だ体系化されていないのかな?という評価でもありました。何とかしなければというのが、8名の委員の共通した思いでした。事務局担当者も、何人かの関係者に声をかけ改訂版の協力依頼はしたようですが、内容を充実させるのは難しいと断られた経緯もあると聞きました。
 委員として毎年回を重ねて議論しておりましたが、その後文化・スポーツイベントの開催実績も増えており、オリンピック業務では精鋭の方々により熟達したものになっているだろうと期待しておりました。
 加えて、オリンピックも開催回数も重ねており、経験や知識による計画案の作成や独自の運営ノウハウを垣間見ることができるのではないかとの思いもありました。
 残念ながら、行政の縦割りの常なのか、日本イベント産業振興協会とか他のイベント関連団体の存在すらない状況で、オールジャパン体制での取り組みといった影すらなかったのは残念でした。あったら、どうだったのかと問われると答えに窮するところもあるのも確かですが・・・・
 本大会の組織体制や組織運営、人員構成、IOCとの連携等々、思うところも多く、メモも残しており、別途記したいと考えております。
 組織委員会全体としての実施計画書は、私が着任時には存在しませんでした。中心的立場の方々が、どうも策定する必然性を感じていなかったのではないか、という声も耳にしました。基本計画は存在します。
 今回の組織体制は、マトリックス・マネジメントを標榜するものでした。縦軸には43会場、横軸にはFA(Functional Area)60部署があり機能させようとするものです。私も過去にそういった組織体制を組んだこともありました。成熟していない組織においては、確実に実施運営するための方策でもあります。どの国で開催されるかも定かではないオリンピックにおいては無難ではあります。一つの部署でミスや勘違いがあって違った方向に向かっていても、どこかで他の部署から指摘やサポートが得られやすいからです。
 実施運営マニュアルは、会場ごとに策定し情報共有するものだと思っていますが、予算計画、管理ともFAに権限があるため、どうしてもFAでの計画づくりに向きがちです。また調整した上での実施計画を策定するとなると、後ろ倒しになってしまいがちです。そういった組織上の課題を抱え、役所的な管理方式に慣れている幹部にとっては、必然性を感じなかったのかもしれません。
 プロジェクト管理という観点からも、実施計画書のない運営準備は一本筋の通っていない(骨抜きにされたような)態勢と感じました。最終的には、各会場ごとに運営マニュアルは策定され、運用されたのは言うまでもありません。
 私は前述しましたが行政が関わるイベント・コンベンションや調査研究プロジェクトに数多く関わって参りました。行政の組織内部ではなく組織委員会を設立して運営するプロジェクト管理方式を取ることが多々あります。従って、役所から出向して業務に携わる形式となります。
 プロジェクト型ですから期間が区切られ、小さな組織体である組織委員会内部で皆が一丸となって連携し目的達成に向けて、総合的に発送し計画作りや運営業務を遂行する。全体最適の発想が生まれ、挽いては人材育成につながる。出向元に帰任してもその経験を生かし貢献する。行政幹部の方々と議論するとプロジェクト管理のメリットを強調する方は多い。従って、プロジェクト管理手法について、職員に研修してくれないかとの要望も多かった。
 今回役所からの出向者の中には、縦割り組織の中での経験から部分最適の発想をする人材が多かったことが、特質の一つではないかと思っている。
VGM(会場運営責任者)と話しをしても、出向元の人事担当の方との情報交換でも、私の印象に近いことをコメントしていた。
 「素人は本番で頑張ろうとするが、プロは準備に余念がない」と言われるが、今回も計画や運営準備を人任せにして真摯に向き合わなかった人もいた。良くあることですが、そういった人材は、本番直前になって騒ぎ立てる場面を多く見てきた。目の前に降りかかってきた細事に気を取られ判断できなくなったり、精神的な不安を見透かされないように誰かに噛みつく。ストレスを発散するかのように。案の定今回も同様のことが見受けられました。そういった状況の場合は、今回もあまり正面から対応せず受け流したり、多少やんわりと対応すると、凡そアイツはダメだ!といった発言をして優越感に浸って気分が治まってくる。私の経験では、イベント終了後に反省し自戒の念に駆られ謝罪に来た人も多くいた。さて、今回はどうなんだろうか?経験を生かしてステップアップしてくれることを願うばかりだ。
 着任早々、上司から私に実施計画書作成のアドバイスをメンバーにしてほしいとの指示がありました。特に、東京以外の開催地の担当者が、2019年4月に着任した部員が多く、これまでの準備状況も充分に理解できていないため、実施計画書を作成しながら認識を深めてもらいたいと意図したのかも知れません。着任草々で、オリエンも満足に受けていない状況でよく引き受けたもんだと今更ながら思います。
 同年7月10日を実施計画書第一稿の期限とし、2か月間での作成としました。実施計画書の目次案を私から提示しましたが、各項目の内容を説明しましたが充分に理解されていないなと感じたものですから、サンプルを見せてイメージしてもらうことから始めなければなりませんでした。それくらい初心者でした。また情報がまとまっていない中での作成ですから、各担当者とも暗中模索でした。充実した第一稿ではありませんでしたが、結果的に実施計画策定から運営マニュアル作成への必要項目、方向性は理解され、他のFA等担当者と何をどう擦り合わせていかなければならないか、基本的なことは認識されたのではないかと思われます。
 私の長年の悪い癖かも知れませんが、誰からも頼まれてもいないのに着任1か月を経過して、私のビジネス・ダイアリーには(新たな環境の)部署の分析をメモしている。
①組織として情報の流通スピードが遅い。その要因としては、
 ・問題意識が低い。
 ・コミュニケーション不足。
 ・業務の連携、共有ができていない。
 ・意思決定が不足(なされていない)
②仕事のリズムが悪い。組織として、
 ・ONとOFFの切り替えが悪い。
 ・密度が濃い仕事と散漫な仕事、充電的な仕事と放電的な仕事の使い分けなし。
 どの担当者も開催時には各会場ごとに配置され、リーダーとして課題解決していかなければならないはずなのに、大丈夫?使命感あるのかな?

 2か月経過して6月のメモには、赤字で
①チーム力を向上させて戦力化しないと!時間がない。そのためには、
 ・ビジョンの共有 ・明確な目標の設定
 ・情報のオープン化 ・適切なフィードバック
②部としてガバナンス不足
 ※一部メンバーの組織を混乱させる言動が目立つ。即、止めさせるべし。

以上のメモは、1か月ごとに続くが組織としての混乱は翌年3月まで続いた。そして部長は出向元に帰任し、私のポジションも変わる。VGM会、部長会で新任の挨拶を行い身の引き締まる思いでいたら、会議後数人の方が私のところに歩み寄って来て、「よくあなた引き受けましたねえ」と心配そうに声をかけられた。
 辞令が出て1週間後(3/24)には、オリンピック開催は一年延期されることが決定。
 当初の計画では早ければ5月ないし6月には会場担当者は各会場に配置される予定だったが変更となり、さてどうするか?心理的な不安や混乱は避けられないが、そのためにもまずは動く必要があり、部員を動かせる必要があると考えた。
 多くの難題や課題が押し寄せ、抱える中で自分自身が混乱して組織を乱さないよう私が考えたのは、『大局観』を常に念頭においてマネジメントすることだった。私のビジネス・ダイアリーの月初のページに赤字で『大局観』と書き続けた。メモ欄には、
大局観 「多・長・根」
  「多」 多面的、複眼的に物事を見ること
  「長」 短期ではなく、長期で見通すこと
  「根」 枝葉末節ではなく、根本に注意を向けること

また、日経新聞の書籍広告欄で名著「失敗の本質」が改めて取り上げられており、そのポイントが記載されていたので、メモッた。世情の混乱期には、この本が見直され、戒めの気持ちも込めて読んでみようというニーズがあるのか?
 失敗の本質 「破綻した組織」の特徴
  ・トップからの指示があいまい
  ・重要なプロジェクトほど責任者不在
  ・客観的データを「自己都合」で曲解
  ・リーダーの数だけ存在する「方針」
  ・可能性よりも「前例があるか」を重視
  ・「原理が論理」よりも「情緒や空気」

 コロナ感染者が多く発生し、4月7日には7都府県に緊急事態宣言が発令された。
 一方では、地方公共団体からの出向者のコロナ対策要員として一時帰任の打診が数多く組織委員会に来ている状態でもあった。事実、その後一時帰任者は続出した。
 また、東京都等から4月からの出向着任予定者の延期もあり、直接雇用者の解雇があるのではないかとの噂も飛び交っていた。再契約の段取りも考えなければならない。
 私は新任でもあり、各部員と個別面談を行うことにした。と、同時に課題を挙げ、ワーキングチーム(WT)を編成して一緒に取り組む方策を検討し始める。個別面談ではそれぞれの現状を改めてヒアリングすると共に、部内の課題等について意見交換する。ワーキングチームでの取り組みに関しても説明し賛同を得た。ヒアリングした中から一部課題もテーマとして反映してまとめた。
 ①全体スケジュールWT
  組織委員会全体とEVS部門の大まかなスケジュールが連動していることが判り大局的に準備スケジュールを把握してもらうことを意図する。
 ②インフォメーション(デスク)運営WT
  インフォメーションの機能や役割について、その運営について概説
 ③ボランティア研修WT
  ボランティアの役割や研修内容についてまとめる。
 ④FOH(Front of House)タスクリスト
  FOH(運営サイドが入り込める領域)における業務内容
 ⑤FOH運営マニュアル
  FOHにおける運営マニュアル
 ⑥運営スタッフのシフト作成
  運営関係者の勤務シフトの考え方、具体的なシフト作り
 ⑦コントラクター(運営委託先)について
  最終的に一緒に取り組む運営委託会社について把握する。
 ⑧遺失物管理(お忘れ物センターの運営)
  システムでの情報管理、お忘れ物センターの運営
 部内全員が何れかのWTに加わり、5月から7月にかけて議論して作成。7月~8月には、最終的な計画案をWTから発表され全員で共有した。コロナ感染状況下において自宅待機、在宅勤務でも議論は可能で、心をつなぐリモート会議でもあった。この発想のベースには、私のこれまでの経験と着任早々に感じた思いがあった。それは、
『対応力を鍛え、発揮できるようにすること』が必要だという考えだった。メモには
組織を、自分を、絶対化しない。⇒ 絶対化すると却ってもろい。
 (1) 基本(ベース)となりうる知識や能力を向上させること
 (2) 段取り上手になること
 (3) 半歩先を読む(習慣を身につける)
 (4) クイック・リスポンス
 (5) 困った状況になっても冷静に判断することを心がける。

 各会場に配置され、現場で担当責任者として判断、指揮しなければならない。そのベースとなる知識を短期間で習得しなければならない。WTでの取り組みも、その前提になると考えた次第です。
 以上の大きな流れがあり、今回の「週末の余談」を発信する経緯があったことをご理解いただけると幸いです。コラムに区切りをつけたのは、2020年秋口から、追加予算、人員補充、研修等が始まり、本番に向けて計画案の作成(修正)等がスタートするタイミングでもありました。