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週末の余談⑦ 「くちコミ・ネットワーク」

広告代理店勤務で凄腕の営業部長として仕事盛りの50歳の男性、彼の一人娘は結婚を控えており、公私ともに充実した日々を送っていました。ところが若年性アルツハイマー病と診断され、主人公の苦悩と献身的に支える奥さんとの感動的な物語。これは、2006年に山本周五郎賞を受賞した荻原浩の小説「明日の記憶」のストーリーです。

2004年11月立ち寄ったハリウッドの書店で、たまたまこの本を手に取り読んだところ、自身が封印していた白血病の闘病生活の記憶がよみがえってきた。と同時に温かさを感じ、即座に原作者である荻原浩に映画化を熱望する手紙を直接送り、映画化のきっかけを作ったのが、渡辺謙でした。

自らエグゼクティブ・プロデューサー、主役も務めました。2006年、映画「明日の記憶」は公開され、この種の映画では異例の20億円を超える興行収入となりました。

本疾病に取り組む家族の会があることを知った渡辺謙は、闘病生活時の自らの経験を踏まえて、各地域の家族の会に出向き、映画制作の主旨や経緯などを説明した後、映画も上映し家族の方々の受けた印象や感想を述べてもらい、対話を繰り返したそうです。不快な感情や上映反対の声が大きかった場合を危惧したからでしたが、概ね好評だったため公開。

興行成績が良かった要因として、この家族の会の存在が大きかったと映画評論されていました。家族の会の方々が、主体となって知人や友人に声をかけたことが大きな動員につながったのです。家族の会の方々と渡辺謙の間にはきっと信頼感が醸成され、仲間として強い絆によるネットワークが形成されたのでしょう。
「P2P]と言われるネットワークが、形成されたのではないかと考えます。
「P2P]:「Peer to Peer」Peerは仲間を意味し、仲良しグループから仲良しグループのネットワーク(伝搬)といった意味でしょうか。

コロナ対応の中で、「D2C」(Direct to Consumer)が浸透してきました。メーカーが自社サイトで消費者に直接販売するビジネスモデルです。デジタルネットワークでの「P2P」も似たような概念と言えます。

携帯電話とインターネットが、くちコミの存在感を増してきました。実は、従来からくちコミのマーケティングはありました。

「くちコミニスト」と言われる存在がポイントとも言われています。

(1)くちコミ・アンバサダー (優良顧客の中の積極的商品推奨者)
 自分が誰よりも早く体験してお勧めする“体験提案型”で新しモノ好きで、自分が買って試したものを聞きもしないのにやたらと薦める近所のおばちゃんのイメージでしょうか。
 テレビCMで、素人の方が体験して感想を述べたりお勧めするのもこれに該当するようです。あるいは、その考え方を取り入れた手法と言えるかもしれません。

(2)オーソリティ(商品・サービスの推奨者)
 商品知識が豊富で、論理的に説得力のある便益訴求型で、例えばパソコンを買おうと思って身近にいるパソコンに詳しい人の意見を聞いてみるのも、これにあたるかも知れません。そうならば売り手は、そういったオーソリティに情報提供しておくことは効果的です。映画評論家のお勧めの映画を参考にするのも、これにあたるのかも知れません。

 (3)エコミュニティ・エフェクター
   (コミュニティの中で商品やサービスの伝搬に影響力を持つ人)
 コミュニティ(仲間内)で話題となって、広まっていくようなこと。
 受験シーズンになると店頭に並ぶ「KitKat」、また癒しスポットが評判になったり、加えて仏像ブーム、仏像女子なる存在も現れていますが、これらも該当しそうです。

くちコミ・マーケティング
映画「明日の記憶」は、くちコミマーケティングを生かした結果となっている訳です。映画の試写会もそういった手法の一つと言われています。

東京ドームで開催された「世界らん展」。洋ラン、東洋蘭、和蘭と愛好団体が国内に数多く存在していましたが、それぞれ交流はあまりありませんでした。それらの団体を組織化し、運営準備にも参画を依頼、大会の成功に向けて協力体制を構築しました。その愛好団体会員が、周囲の人々に声をかけチケット販売まで実施しました。販売枚数に応じて、愛好団体にキックバックするインセンティブが効果を発揮しました。

本来くちコミは、強い信頼関係の上で成り立った情報流通ではなかったかと思われます。信頼性に乏しい情報やフェイク情報が多い昨今、今一度信頼度の高いコアメンバーからの情報発信やネットワーク形成を心がけ、大切にしたいものです。

2020年8月24日


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