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ある新任課長への余談 ① 観察力


日刊ゲンダイ DIGITAL


 落合博満は日本プロ野球史上唯一となる3度の三冠王を達成した選手時代のみならず、2004年から2011年まで中日の監督を務め、全ての年でAクラス入りを果たし、4度のリーグ優勝、日本一を1回達成した輝かしい実績を誇る。
 監督時代、試合中はベンチでは無表情、一切感情を露わにしないことでも知られていた。監督退任後、「監督が感情的になり怒っている姿を見せると、選手はベンチを見るようになり体が動かなくなる。本来、選手はグランドで相手と戦うのであって、ベンチのこっちと戦うものではない」、「イニング間にベンチ裏に下がり監督室で一人愚痴ったり大きな声を出したりして、頭を切り替えてベンチに戻っていた」と吐露している。また、「試合前の練習や試合中も同じ位置、視点で選手を観察していると、動き(フォーム)が違っていることが判る。不調で悩んで、もがいている選手には指摘、アドバイスしていた」と語っている。「ずーっと見ていると、違いが判るもんです」とも述べている。

 政府は一億総活躍社会の実現をめざし「働き方改革」を最大のチャレンジとしている。
 「元旦以外、仕事は休まない」、「休みたいなら辞めれば良い」と、公言しハードワークで知られる日本電産の永守重信社長が変心した。長時間労働が代名詞だった日本で、官民挙げての働き方改革が広がる中、日本電産は「2020年度に残業ゼロ実現」をめざすと宣言。目的は生産性倍増、単なる残業削減ではなく、グローバル競争での勝ち筋に結びつける。日本より社員の労働時間が短く、休暇も多く取得している欧米企業の業績がいいのはなぜか・・・。こんな疑問が頭をもたげるようになったそうだ。様々な取り組み、改革を進めていく中で、残業が発生するのは、社員の能力と仕事量にミスマッチがあるからだと判ってきた。管理職が部下の適性や仕事の状況を把握し、正しくマネジメントできているのか?部下に残業をしなくてもよい具体的な方法や対策を指示しているのか?
 管理職は、日頃から自分の職務に追われ、部下の日常業務について観察し、業務状況の把握が出来ず疎かになっている状況が見えてきた。部下の残業を削減する決め手は、管理職のマネジメント力を向上させることだと結論付け、そのため管理能力を高める研修を実施し始めている。

  「部下をしっかりと観察すること」は、上司の大切な仕事の一つです。
 観察をしないと事実(状況)をきちんと把握できず、評価することも難しい。観察の対象となるのは、「ヒト」と「モノ」で大きく2つに区分されます。
 「ヒト」とは、どんな人なのか?どんな考えをもっているか?といったところまで観察の対象となります。
 「モノ」とは、オフィス等にある備品や道具、機械などを指します。

 観察力とは「ものごとを観察し、変化に気付く力」と言われています。
 一方、「洞察力」とは、「物事の本質を見抜く力」のことです。
 観察はあくまで「表面的な部分を注意深く見る」という行為ですが、洞察は「物事の見えない部分まで見抜く」行為を指します。

 観察力を身につけるメリット
  ①分析力が高まる
  ②コミュニケーションが円滑になる
  ③ミスやトラブルが減る

 観察力を高める方法
  
①日常で起きる出来事や他者に興味を持つ
  ②仮説思考力を鍛える
  ③変化に着目する癖をつける

観察力を高め、部下へのアドバイスや指導のポイントをつかみたい。

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ある公的機関の不祥事が続き世間を騒がせている頃、私はそのチームに加わる機会を得た。そもそも興味関心があったこともあり願ったり叶ったりだった。組織体制や職場の雰囲気等を見てみたい、感じたいという思いだった。
 今思い返しても、どんな業務内容だったか残念ながら明確な記憶がない。短期間だったこともあり、興味本位だったこともあり、致し方ないところだが不謹慎この上ない。今更ながら、コミットしていなかったなと大いに反省している。斯様に、私は周囲とあまり交わることなく、目立たず職場を興味本位で眺めていた。
 トラブルが発生した部署ではなかったこともあり、バッシングを受けた組織の緊張感はあまり感じられず、まさに役所そのもので職員は淡々と業務をこなしていた。なあんだ、そんなものか、拍子抜けした気持ちになっていた。ただ、部長以上の幹部と課長クラスとの間に、かなりの隔たりがあり組織運営の難しさを感じた。幹部が組織的に委縮しないように気を使っているのか、実務にあまり関与せずコミュニケーションの悪さもあった。
 私は、年齢も含めて周囲とは浮いた存在だった。後で分かったことだが周囲は私のことを、一連の不祥事を受けて内々に調査に来た人ではないかとか、週刊誌や月刊誌等の雑誌に投稿するルポライター、あるいはゴーストライターで素材集めをしようとしているのではないかとか、勝手に噂し陰口をたたいていたらしい。
 そんな折、ある課長から声をかけられた。皆さんとどうコミュニケーションしたら良いか、どうアプローチしたら良いと思いますか?
 聞いたところ、出向元の銀行では管理職の経験もなく、ここに来たらいきなり課長職で、現状は風通しも悪く、組織運営としても上手くいっておらず悩んでいる様子だった。マネジメントのイロハを学ぼうと本を買って読んでみたが、頭に入ってこない。そこで年長者でビジネス経験が豊富そうな私に、まずは聞いてみようと思ったとのこと。
  私はアドバイスするのは任ではないと固辞したが、感想だけでも等と食い下がられ、彼のおかれている環境に同情すると共に、その熱意にほだされ数日考えてみますと告げ、後に下記のメモを渡した。

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(1)観察
   職場の雰囲気および人間関係を観察するだけでなく、職員個々を観察するポイントは、   
   ①遂行能力・・・業務知識や改善力があるか等
   ②業務成果・・・業務達成度や効率の良い業務遂行か
   ③マインド・・・・(性格・気性のみならず)協調性、積極性、責任性があるか?

(2)個々の実績を調査分析
   個々の本業務での実績<業務達成度や効率の良い業務遂行か等>を調べ把握する。

(3)部下へのアプローチ<コミュニケーションを円滑にする話法>
    〇共 感・・・・・過去を尋ねる
               <そうか、それは大変だったね>
    〇賞 賛・・・・・次に現在を聞く
               <すごく頑張っているんだね>
    〇共 有・・・・・さらに未来を語る
               <私も目標が達成するよう協力するよ>

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 しばらくして、彼と同様に関連団体からの出向者で数名の課長職も加わり会議をもった。同様の境遇で共通の課題を抱え,日頃から情報交換している仲間で、私の話を聞きたいと言う。

 私なりの状況に関する感想を述べた。
〇課内はプロパー職員、出向者、契約職員、人材派遣職員等で構成され、年齢もまちまち。
 従って、知識・経験値ともレベル差があり、対応が難しい状況にある。
〇部長以上の幹部と課長以下のメンバーには階層があり、課長職は難しい立場にある。
〇皆さんは問題意識はあるものの、漫然と課員を一つの固まりとして見ているように感じる。

 渡したメモは現状を鑑み具体的にどうしたら良いか、私なりに考えたもので、アドバイスはするが、どうするかは皆さんが考え判断してほしい旨、伝える。

メモの趣旨を説明
〇どうコミュニケーションしたら良いかが課題だが、部下に興味関心を持ち知ることが先ではないか。そのために、まずは観察することから始める。その人の得意とすること、苦手なこと、好き嫌い、課内の誰とコミュニケーションしているか等、相手を知ることから始めたらどうだろうかと。

〇具体的な実務の状況は、データやファイルを確認すれば、ある程度把握できるはず。

〇実際に対話する際は、これまでの実務についてどう思っているか聞いてみる。失敗を糾弾されると思われたらダメで、そういった際には「そうか、それは大変だったね」と労うように。

〇コミュニケーションを取る前提は、ギスギスとした雰囲気を排除して、落ち着いた環境の中でモチベーションアップが狙いのはず、何か困ったことがあったら皆で助け合える雰囲気作りを心掛けたい。

理解してくれたか定かではありませんが、
「将来の管理職に向けた研修と捉え、前向きに取り組んでみたらいかがでしょう」 と励ます。