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NIIGATA2⃣ 「縁」づくりと都市コミュニティ

【都市とテーマパーク、ブランディング】

 1980年代に東京ディズニーランド(TDL)を始め全国各地で開業されたテーマパーク・ブームも凡そ20年を経過すると、ブームは過ぎ去り明確な検証が可能となっている。ご存知の通りTDLが抜きんでた成果を上げていることは言うまでもない。
 テーマパークは、面白くて楽しいだけでなく、観客に何度も来ていただく「リピーター率」が何より大切だと言われている。さらに、テーマパークはコンセプトが生命であり、多くの人の心に響き、心の中にしみ込んでいくパワーも必要である。それには人間の本質をとらえ、人間の普遍性をしっかり把握した企画が求められる。

東京ディズニーランド(TDL)_写真(伊藤拓郎)

テーマパークのエンターテイメント力
 
理性と感情、不易と流行、ノスタルジーとエンターテイメント。これらを抱合したテーマは一つのコンセプトから成り立つ。コンセプトから特定のテーマが生まれ、新たな別世界を創りだす。テーマにそったエンターテイメント力がオペレーションも含めて隅々まで行き渡った時、初めてパークは独自の情感を醸し出し、観客は楽しさを満喫できる。この情感演出がテーマパークの全てであり、新たなイマジネーションを湧き立たせる。
 日本におけるこれからの成熟社会は「モノの豊かさ」よりも「心の豊かさ」が大切になると言われている。大量生産・大量消費の時代から、地球環境を考え、異文化を重視し、人の心の痛みを理解し、本当のコミュニケーションを考える時代になると・・・。
 さらに21世紀は「文化とコミュニケーションの時代」、「こころの時代」と言われている。
 エンターテイメントの考え方及びそのソフトは、新たな生活のニーズとして、サービス業だけでなくあらゆる産業に応用できる。

都市のテーマパーク化とアイデンティティ
 
テーマパークの集客力やエンターテイメントの本質を探ることは、都市コミュニティの本質を追求することになるのではないか。なぜなら、エンターテイメントは「人をもてなすこと」であり、「エンターテイメント・テーマパーク」は顧客満足を最高の効率をもって提供するノウハウの集積だからである。さらに巨大な集客力は、経済・文化・福祉など幅広い分野で地域社会に貢献することが期待される。まさに都市経営そのもの。都市をテーマパークと捉えマネジメントする都市のテーマパーク化が言われて久しい。この概念はもう忘れられてしまったのだろうか?もしそうだとしても、テーマパークがもつ本質は、現在言われている都市のアイデンティティと何ら変わらない。都市のブランディングを追求することに繋がる。

【コンベンションビジネスと集客】

コンベンション。当時の運輸省・国際観光振興会によると『非日常的な人の集まりを核とした物、知識、情報などの交流のための集まりであり、ある国、地方へ人、物、知識などを呼び込むシステム』としている。所謂、国際会議や展示会等といったコンベンションは、参加者一人当たりの消費額は他のイベントと較べて抜きんでて大きいと言われている。従って、都市経営の観点からもコンベンション開催、誘致活動は熱を帯びている。
 「人が集まる」裏返せば「集客」ということになるが、集客の本質とは何だろうか?
 1980年代にコンベンションビジネスが日本で注目され始めたが、先にあげたテーマパークも同時期でもあり集客という観点からも同様に注目されてきた。

 TDLには、“ワクワクどきどき”心が満たされる集客のハピネスの条件が備わっている。集客の本質は、このあたりにあるのだろうか?
  ①非日常性の環境  ②優れた感性  ③新しい可能性がいっぱい
  ④みんなと一緒か半歩先  ⑤教育的効果  ⑥もう一度来たくなる
  ⑦おいしい食事と珍しい買い物

 街づくりにおける集客も同様に注目を集めている。
 街(づくり)の再生プロジェクトの際立った成功例として、滋賀県長浜市の街づくりプロジェクト「黒壁スクエア」がある。かつての過疎商店街が、年間200万人もの集客に沸くようになり話題を集めている。

黒壁スクエア (https://www.kurokabe.co.jp/より)


黒壁スクエア 散策マップ

 占いをテーマに「占いの町」として知名度が上がったのが大阪市福島区の福島聖天通商店街。毎月第4金曜日に20~30人の占い師を商店街に呼び、路上に机を並べてイベントを実施。以前はほとんど見られなかった若い女性が商店街に押し寄せ賑わっているというから驚きだ。 また、東京駅前の丸ビル、六本木ヒルズ、今年に入って表参道ヒルズが、注目を集め集客力の高い施設として話題となっている。

「占いの町」福島聖天通商店街
表参道ヒルズ

【集客力の本質とは?】
 
集客パワーを発揮する共通のポイントとして、以下の5項目にまとめる。
   _ 新陳代謝
   _ 本物追求
   _ 文化発信
   _ 安心接客
   _ 異質空間

 前述の「黒壁スクエア」で当てはめてみると、
 黒壁はガラス工芸を軸とした地元商店街の再活性化プロジェクトで、単にガラス工芸を商品として売るだけでなく、ギャラリーを設けて鑑賞の場をいくつも作り、さらに工房を開いて製作を体験できるようにした。
 また作家の卵を招致し、本場ヨーロッパで学ばせるなど、人材育成に努めている。つまり「本物追求」をしながら「文化発信」を続けてきた。
 古い建造物をショップとして再生させる一方で、イメージを統一させた新店舗も次々に増やす。さらに周辺の既存商店街もリニューアルすることで、訪れる人の回遊範囲も広げていく。「新陳代謝」も明らかに集客力の源泉になっている。当然そこには「異質空間」も、「安心接客」も存在する。
 観客がその場で購入して持ち帰る行為も重要で、単に商品を持ち帰るだけでなく文化を持ち帰り伝えることに繋がる。そのためのブランド戦略も重要だ。

【告知と動員…集客のためのマーケティング手法とは】

 集客をプロモートする際、従来のマスメディアを活用した広告宣伝手法から確実な動員を可能にするマーケティング戦略が不可欠になってきている。誤解を恐れずに言えば、マスメディアを活用した効果が期待できても、参加動員にはつながらず、別の手法、つまりきめ細かい動員対策を用いる必要がある。
 マーケティング戦略として「くちコミ」手法の効果が見直されている。携帯電話やインターネットと併用して、くちコミを効果的にコントロールして、プロモーションやブランディングをはじめとするマーケティング活動に役立てようと動きが活発だ。
 ある商品を購入しようとする際、従来のテレビ・コマーシャル等の宣伝より、その商品に詳しい知人のアドバイスを信用するのも「くちコミ」の一つと言える。また、くちコミが適したものとして、よく引き合いが出されるのが映画。一般の人たちを招待して行う試写会は、まさにくちコミで映画の面白さを伝搬してもらう手法として定着している。

【映画ビジネスにおけるくちコミの活用】

 さらに、映画各社が観客動員に向けた取り組みを強化し始めている。地域の劇場関係者らと連携し、映画需要の掘り起こしに躍起となっている。観客獲得競争が激しくなる一方で、作品の魅力を訴えるきめ細かな工夫が重みを増している。その出発点が良い作品づくりにあることは言うまでもないが、エンタテイメントが多様化する中で、映画館に足を運んでもらうには、作品の魅力を伝えるきめ細かい販促戦略が一段と求められている。

映画「明日の記憶」
 若年性アルツハイマー型認知症を題材に、本年(2006年)5月13日に公開した「明日の記憶」は、大きな興業的成功を狙うには難しいテーマとみられたが、中高年層の観客には支持され興業収入20億円強、観客動員180万人(6月28日現在)を記録した。予想をはるかに上回る大ヒットとなった。公開前、主演俳優の渡辺謙と東映関係者は観客を対象に全国27か所で試写会と座談会を開催。さらにその合間を縫って、東京や大阪などでは400人以上の劇場支配人を交えたマーケティング会議を開催した。「なぜこの映画を制作したのか」「役者として何を考えたか」。こうした対策が奏功し、映画の予告編を紹介した5月には、宣伝パンフレットを劇場で観客に手渡して熱心に作品をアピールする支配人が目立ったという。
 俳優を含む製作関係者が観客や地域の劇場関係者らと交流を重ね成功を収めた例と言える。

映画「日本沈没」

日本沈没ポスター(2006年)

 東宝は7月15日に「日本沈没」を33年ぶりに製作・公開する。新たな試みの一つが東京、大阪など地域ごとのシーンを使って製作したご当地専用パンフレット。日本を舞台とする作品内容を考慮し、地域ごとの集客を期待したもので、このパンフレットがきっかけになり、作品づくりと宣伝活動でさらにきめ細かい工夫が進んだ。 当初、映画には名古屋のシーンはなく、ご当地宣伝用パンフレットもなかった。しかし名古屋の東宝関係者らが今春、公開を盛り上げようと、あたかも地元が登場するようにデザインした宣伝ポスターを独自に製作した。監督は「作品を一緒に成功させたい」という関係者の熱意に促され、急きょ名古屋の映像を加えた。(本年7月3日付、日経産業新聞より)
 これはまさに、地域を意識したきめ細かい販売促進戦略と言える。

【集客と縁づくり】
 
この販売促進戦略も「くちコミ」を利用したきめ細かい手法と言えるが、これはある意味では人を媒体としたネットワークづくりでもある。このネットワークは、人と人との「縁」づくりでもあり、小さな縁づくりの活動が上記の映画のように大きな動員に繋がり成果を生む。縁と縁が繋がり、縁が重なった時こそ豊かなコミュニティ、大きなコミュニティが生まれるのではないかと思われる。
 都市コミュニティの集客力アップのベースとなる活動は、人々の縁づくりによって成り立つとも考える。
 釈迦は、全てのものは互いに関わり合う中で存在していると「衆縁和合」を説いた。この衆縁和合こそコミュニティの原点ではないか。縁を結び、結んだ縁を尊び、その縁に従う「結縁、尊縁、髄縁」の精神こそ、都市コミュニティの集客力アップのベースとなる活動と考える。

【都市の魅力づくりと縁づくり】
 
科学技術の進展とともに社会は進化し、専門性はさらに深化し、その領域は特化し狭められてきた。情報(IT)・デジタル革命は、社会産業基盤を根底から覆そうとしている。人間関係、経済、行政・政治など様々な領域における「疎外感」を増長させていく。そのため、人々は感動を求め、来るべき社会においてコミュニティへの回帰、新たなコミュニケーション環境を生み出すのではないかと言われている。
 人間・時間・空間や学際・業際といった「間」や「際」といった意識が高まり、その領域を超えたアプローチによるコラボレーションが求められている。今回の市町村合併は、ある意味、「際」を意識し、いかに市民がコラボレーションし、縁づくりに勤しむかではないかと考える。政令指定都市による区制が、新たな領域を形成するのではなく、新たなコミュニケーションの出現に寄与するものであって欲しい。
 
 都市に住む人々が、同じ空間の中で生活を営みながら、それぞれの「際」を超えた横断的なコミュニケーションが、心豊かなコミュニティを営み、「行政際」というべき行政間の垣根を越えた市民の縁づくりが、都市の魅力を増幅し集客力を高める源泉になるのではないかと考えている。
 <新潟市シティプロモーション推進アドバイザー>

新潟市City Promotion News Vol.30&31掲載 (2006年)