ある新任課長への余談 ④ 情報共有
笑い声を立てる生物はゴリラやチンパンジーなど類人猿しかいない。
ゴリラは言葉を使うわけではないのに、10頭前後の群れが1つの生き物のように動く。僕はこれを「共鳴集団」と呼んでいる。ゴリラやチンパンジーといった霊長類の生態を研究してきた京都大学霊長類研究所の山極寿一教授の言葉です。
共鳴集団
人間の集団規模とコミュニケーションの関係について山極氏はこう定義する。10~15人は言葉を交わさずに意思疎通できる「共鳴集団」だ。サッカーやラグビーのチームが相当する。ゴリラの平均的な群れも10~15頭だ。30~50人は顔と性格が分かり一致して動ける集団。学校のクラスの人数だ。
スポーツでは言葉ではなく身体でつながり合って連携して動ける。家族も言葉を必要としないくらい、それぞれの身体の個性を分かり合っていて、まとまることを喜びとする集団です。
スポーツ組織のみならず現代社会におけるビジネス組織においても、最小単位の理想的な規模として、共鳴集団を参考にすることができるのではないだろうか。
家族と共同体の二重構造
人間は家族の外に共同体があり、緩やかにつながっている。この二重構造は人間だけに見られる特徴です。サルやオランウータンなど他の霊長類も含め、動物の集団生活は、大きな集団(群れ)か小さな集団(家族)のどちらか一方が形成されている。だが人間は両方を形成し、その間が緩やかにつながっていて、行き来しながら生活していくことができる。その理由が、共同の「食事」と「子育て」だという。
共食
人間は食物を取って運び、あるいは自分たちで生産して、皆んなで集まって食べる。この『共食』によって家族と共同体という二重構造が成立したわけです。そして、他の家族と一緒に子育てすることによって共同体が強くなっていく。
共感力
人間の祖先は400万年以上前に大陸を移動するため直立2足歩行を始めた。楽しい時やうれしい時には声を発し、手や腰を振って踊り始めた。山極氏は「音楽や踊りが心を一つにする共感力を高め、言葉を生み出した」と考えている。言葉がなくても、身体の五感である視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を最大限に使って、つながっていく。人間の脳は言葉によって発達したわけではないと語っている。
現代社会においては、ITの飛躍的な進歩がもたらしたコミュニケーション革命がある。情報が「マス」に投げ込まれて流通していた時代から、ネット社会の発展で、個人に直接届くようになった。家族や地域社会で交わることによって、そこに広まっている情報を収集したり議論したりする機会が減っている。それが家族や地域社会とのつながりが薄くなる一つの要因にもなっている。そして、人々は利己的になっていく。
ネット社会の進展により情報を多くの人に同時に届けることが可能になったが、一方では情報格差が生じていると言われている。インターネットなどの情報通信技術を使える人と使えない人との間に生じる格差を表す言葉だが、その結果として情報をキャッチした人と出来なかった人との格差は大きい。
『同じ釜の飯を食う』という言葉がある。
スポーツ集団、学校や職場・軍隊など他人同士が共同生活を送りながら苦楽を共にすること。同じ共同体で同じものを食べることによって、共同体として帰属意識を持つこと、あるいは強化することにつながる。
私は現代社会において『同じ釜の飯を食う』とは、組織内において『情報を共有する』ことではないかと考える。組織(チーム)の全員が同じ情報を知っていることの意義は大きい。
人の見える視野は、得られる情報によって違ってくる。同じ情報のもと、各自の視野を共有することは意識を共有することに繋がり、問題意識が共有されれば課題解決に向かっていくはずだ。チームとしての成果を出していくことになる。
「同じ釜の飯を食う」と同様に、共同体としての帰属意識の強化やチーム力の向上に向かい、より一層の成果を生み出すことになる。
従って、一部の人にだけ「伝達する」のではなく、全員が同じ情報を持つように「共有する」ことが大事だ。
情報を得ることが容易になった現代において、正しい情報をシェアする人が信頼される社会になったと認識すべきだ。情報をもっていても隠そうとしたり、情報を持っていることで権威づけるような態度や行為は、信頼感を損ねてしまう。
組織内(チーム内)で情報共有を行うと得られる5つのメリット
①組織内の「見える化」実現で、業務効率や生産性の向上につながる。
「可視化」して、情報へのアクセスの手間や無駄な確認作業が省ける。
②コミュニケーションの活性化
チーム内のコミュニケーションが円滑になり、活性化する。
③情報(業務)の属人化を防止する。
知識が偏れば、チームの質の低下や底上げが出来なくなる。
④ノウハウの蓄積が可能となる。
共有化に向けて情報の体系化やノウハウの蓄積につながる。
⑤主体性を持つ人材が増える。
情報共有の環境が整備されれば気軽に情報発信しやすくなり、結果的に主体的に行動する人材が増える。