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③生産性とチーム力        (プロジェクト・アリストテレス)


 生産性を向上させるには、「成果を大きくする」、「投入資源を少なくする」の2つの方法が考えられます。よく知られている経済原理です。
  生産性=(成果)÷(投入資源)
 成果を大きくして生産性を向上させたいのが経営マネジメントですから、投入する資源を過小化することが焦点となります。投入資源とは、ヒト、モノ、カネの全てが当てはめられるが、労働集約的な仕事環境においては、あまりモノ、カネを投下する環境にはない。そうなると残るはヒトのみで、ヒトの投入資源を少なくするとは、端的に言えば人員削減。
 一方投入資源を現状維持のまま、成果を大きくして生産性を向上させる方法が無い訳ではない。チーム力の向上により成果をアップさせることが考えられる。
 現状の実務は、各担当者が損害賠償の請求内容を深掘りしてワンストップ・サービスで対応することが効率的であると考えられ実践しているのが現状であり、成果は個人に帰結するものでありチームやチーム力は関係ないと思われがちで疎かにされています。

 近年、個々の能力や技術によって争う個人競技において、チーム力が勝敗に左右することが実証されています。日本では個人競技の最たるスポーツと認識されていた水泳において、チームを前提としたオリンピック代表選手の選考と組織運営の改革により大きな成果を生み出していることは、周知の事実です。
 チーム内において競技が違えど情報を共有し問題意識を高めるため、技術向上の取組や成果を情報交換することにより、チーム内にハイレベルな環境を醸成し、ある面ではチーム文化を高めることが、個人の成果に結び付いていったと考えられています。

『プロジェクト・アリストテレス』
ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
 2012年に米グーグルが生産性向上計画に着手したプロジェクト名です。同社の「人員分析部(People Analytics Operation)」によって実施されました。
 グーグル社内には様々な業務に携わる数百のチームがあると言われていますが、その中には生産性の高いチームもあれば、そうではないところもある。同じ会社なのに、何故、そのような違いが出るのか?この疑問からスタートしたようです。様々な角度から分析し、より生産性の高い働き方を提案することがチームの目的でした。

 元々、データ分析はグーグルの得意技で、直ぐに「解」は出せるだろうと考えていたようです。ところが、共通するパターンが見つからない。
まず「チームワーク」をキーワードとして、関連する要素を洗い出し分析したようです。
 数値化して分析するだけでなく、観察手法により観察結果を図式化して、共通するパターンを見いだそうとした。チーム編成やリーダーの資質、チーム内の融和と言った様々な要素から分析を行っても、共通するパターンつまり相関関係は見い出せなかった。

 そこで、外部の社会学者や組織心理学等の多彩なエキスパートを募り分析作業を行った。「チーム編成の在り方」と「労働生産性」、「チーム内の規範(ルールやカルチャー)」と「働き方」に関するパターンではなく、「成功の法則性」に着目していった。
 その結果、上手くいっているチームのカギは「心理的安全性(psychological safety)」にあるのではないかという結論にいたり、「集団心理学」に関する学術論文などアカデミックな調査結果を深く当たり結論に至った。「他者への心遣いや同情、あるいは配慮や共感」といったメンタルな要素の重要性であり、成功するチームでは、これらの点が非常に上手くいっていることが解った。
 つまり「こんなことを言ったらチームメイトから馬鹿にされないだろうか」、「リーダーから叱られないだろうか」、あるいは「チームから外されないだろうか」といった不安をチームメンバーから払拭する。「心理的安全性」と呼ばれる安らかな雰囲気をチーム内に育めるかどうかが、成功の鍵なのだという。それは暗黙のルールとして、そのような決まりを押し付けるのではなく、むしろ、自然にそうなるような雰囲気がチーム内に醸成されていなければならない。

 そのために具体的に何をすべきか、となると難しい問題があった。何故なら、グーグル社員は、数字やデータ分析は得意だが、他者への配慮や同情となると、欠如しているとまでは言わないが、少なくとも、それらを表現するのは、あまり得意ではないと考えられたからだ。

 2014年後半に人員分析部では、チームリーダー格の有志を募り、プロジェクト・アリストテレスの主旨や調査結果を伝え、自らのチーム内に「心理的安全性」を育むための具体策を考え、実施するよう促した。
 その実施結果(成功事例や課題など)から新たな問題が浮かび上がった。個々の人間が仕事とプライベートの顔を使い分けることの是非であったという。同じ一人の人間が会社では「本来の自分」を押し殺して、「仕事用の別の人格」を作り出すことの是非である。これは、「仕事用の別の人格」を作り出すことを意識している人が多いことを意味する。

 社員一人ひとりが会社で本来の自分をさらけ出すことができること、それを受け入れるための「心理的安全性」を感じる安らかな雰囲気をチーム内に醸成することが、間接的ではあるが、チームの生産性を高めることにつながる。これがプロジェクト・アリストテレスから導き出された結論であった。

 プロジェクト・アリストテレスのレポートは、心理学で言う「安全基地」の人間の愛着行動に関する概念そのもののように思われる。つまり、子供は親との信頼関係によって育まれる『心の安全基地』の存在によって外の世界を探索でき、戻ってきたときには喜んで迎えられる。
 どうして子供は、不確実なものに対しても怖がらずにチャレンジできるか?それは、子供には「安全基地」あるからだと言われています。
「安全基地」というのは、つまり逃げ込める場所のことです。外に出て様々なことにチャレンジする。もしも失敗しても傷ついたとしても、安全基地に逃げ込めば、そこには自分を温かく守ってくれるものがある。多くの子供にとって、それは父親であり、母親です。そのような安心感があるからこそ、子供達は脳をいつもポジティブに保つことができる。
 では、安全基地を不幸にも持てなかった子供はどうなるか。常に不安を抱きながら育った子供は、大人になってもネガティブ脳から抜けだすことができないと脳科学者の茂木健一郎は著書で解説しています。また、親子関係だけでなく、夫婦・友人・職場環境においても拠り所、ステーションを持っていれば良いとも言っています。

近年注目の「心理的安全性」の正体とは?(株式会社ITSUDATSU)