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Take it on

 夜明けが早くやってくる。少し白んだ中に佇む富士山を横目に颯爽と車に飛び乗る。朝7時から始まる4時間の生放送は僕の時間厳守によって週に2回、電波に乗るか乗れずかの弥次郎兵衛と化している。スタジオまでの道中タバコを吸う。夜に少し蒸された車内の澱みとタバコの煙を適温の外気と入れ換える。空気が美味しい。喫煙者が空気の美味しさを語るなんて馬鹿げてると吐き出された煙は意思を持ったように外へ逃げ出す。まだ夢でも見ているのかもしれない。強まる日差しを浴びて少し可笑しい妄想に目を細める。

 暖かくなってきた。寒がりで暑がりなエアコンネイティブ世代の自分にとって、丁度今くらいの朝晩の気温差がマジ適温でベネ!気分が良い。仕事の都合上昼間に自宅で風呂をする事が多いのだが、あまりの適温にパンイチでベランダに仁王立ちをして紫炎を燻らせてしまう。下校してる小学生達にだらしない、もやし体型を見られながら吸うタバコが最高である。君たちが普段浴びている日光を僕はこうでもしないと浴びれないのだよ。憐れな大人だと思ってくれて良いよ。君たちの人生のちょい役になれたら良いな。脱糞。


 夜は店を締めて駐車場まで歩く。商店街には自然が無いので少し寂しい。季節毎の装飾で季節を感じるのは少し味気ない気もする。しかし、こうして毎晩歩いてみると実際は少し違った。歩道のタイルから顔を出す雑草は冬より元気だ。鉄製のアーケードの密度が上がって鳴いている。閉じたシャッターのサビも色づいてくる。少し立ち止まって吸うタバコも適度な湿度が美味しい。すれ違う野良猫だってなんだか動きがゆっくりしっとりしている。気温が変わるだけで景色も変わる。長袖Tシャツに身を包んだ体で適温の商店街を今夜も歩く。


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