好き嫌いの材料
2022、12、12
見上げてごらん冬の森を。
秋までは葉に隠れて見えないから
冬の夜、裸の木々の合間に星と月が見えて幸せに思う
が、昼、見上げてみたらすごいものを見つけた。
集合住宅、巨大、おそらくスズメバチ。
数年前も別の場所で見つけたがいつの間にか消えたし
人も犬も被害にあっていないし
あんなに高く距離をとって下さっているし。
共存している、でいいかと思う。
蜂の群れと、30cmの距離で共存していたことがある。
北鎌倉に暮らすある日、玄関ドアを開けた上に、巣を発見した。
しかもハチの皆さんは、私に対して羽を震わせて威嚇体制である。
私がいるとわかって巣を作ったくせに。
家に出入りするたび泣きたい気持ちで身をかがめる。
駆除の方法とハチの種類を調べた。
アシナガバチ。性格は温厚で自分からは攻撃しない。
温厚、の一言で、私の駆除意識が一気に降下した。
温厚な相手を殺すのは、悪人ではないか。
温厚でない行動に出られたら考えればいいか。
蜂刺されの薬を用意した。
難点としては、人を呼べなくなった。
大家さんなどが来た時は、頭上に意識が向かないよう努力した。
旅人・M君(沖縄で出会った王子)が来る時は、事情を伝えた。
彼の感想:「うわ、これやばいよ」
やばいチャレンジをしているやばい自分、がいた。
父が泊まりに来る時は、隠し通す覚悟をした。
匿(かくま)う、という初めての体験。
蜂は黒を攻撃する、という情報はとても正しい。
よりによって黒づくめで登場した父に、軍の攻撃体制max。
数日後、知らぬ仏のまま父が帰った時の安堵たるや。
蜂が頭上にいることが当たり前になり
家を出入りするたび、彼らに挨拶するようになった。
彼らももう、私を威嚇しない。
前はお互いを、知らなくて怖がったよね。
この頃教えていた横浜の中学、3年生の授業で映画
Long walk homeを取り上げた。
白人主義の夫、黒人メイドの差別反対活動に共感する妻
大事に思う誰かが表側で判断される時、間にいる者の葛藤は大きい。
ロミオやジュリエットに至っては、挟まれて死んでしまった。
冬が近くなるにつれ、彼らは小さくまとまっていき
ポロポロと落ちていき
玄関にハチのいない家に戻り
アシナガバチを少し知っている自分が残った。
スズメバチが好きか嫌いか、まだ材料が足りない。