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inagena vol.1 「音」

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「音」をテーマにした、ジャンル横断アンソロジー『inagena vol.1』(2024/5/19開催〈文学フリマ東京38〉にて発売)、全収録作品の冒頭が試読できます。
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Sonnie「心臓」

 奏でられる鐘の音。まばゆい白い壁がそびえ立ち、教会内を光り輝かせている。空気には神聖な雰囲気が満ち溢れ、慈愛に満ちた思いが包み込まれていた。この美しい教会では、今日一組の新郎新婦を迎え入れる準備が整っていた。  これから新郎新婦が登場する聖堂の入口には、白い花が豪華に飾られ、光に反射してキラキラと輝いている。祭壇の前には、カラフルな装飾が施されたキャンドルが並び、その明かりが優しく会場を照らしている。  客席に座る人々は、様々なドレスやスーツを着ており、祝福の空気を一層引き

あらみきょうや「かばね」

 正体は茸である。蒲根、と表記するがこれは近代以降に成立した当て字であり、蒲の繫累に名を連ねるものではない。むろん根菜でもない。山中の水辺に群生し、じっさい蒲の根元などにも見られることから名づけられたとする説もあるが、これは些か信憑性に欠ける。蒲はなくとも茸は生える。  従来カワネ、あるいはカワノネと呼ばれていたものが時を経て転訛したのであろう、とは教授の弁だ。真偽のほどは不明である。唯一の論拠は神社の蔵で見つけた江戸時代の書翰だという。何しろ生息域が狭く、採集や栽培を生業と