フォローしませんか?
シェア
飛行機に乗る。通路を挟んだ隣に若い男女がいて、赤子を抱いていた。 それから時が何年も過ぎた。 長期休暇を申請し、ハワースに訪れた。 「おじさん、日本人?」 日本語が聞こえる。 だいたい14歳ぐらいの青年がいた。 「そうだけど」 「うあー久しぶりやな。俺も日本人なんだ。生まれてすぐにイギリスに来て、それから日本なんて行ったこともないんだけどね」 「そのわりに日本語が上手いじゃないか」 「ボイチャばっかりしてるからね。アニメも見てるし。おじさんはどこにいくん」 「
遠くから、ゆっくりと何かの音――いや、声が近付いてくる。 おぎゃあ、おぎゃあ、……ああ、これは産声だ。私がこの世に転び出て、初めて出した声だ。不思議なことに、見えないはずの目でも、周りの人々の笑顔が見える。 私は祝福されて生まれて来たのだ。少なくとも、あの瞬間だけは。 びゅおおおおおおおおと、両耳を大気の切り裂かれる音に支配される。高度何万メートルから私は落下しているのだろう? わからない。わからない。まま、私は生身でただただ落下し続けている。 わからないことより
奏でられる鐘の音。まばゆい白い壁がそびえ立ち、教会内を光り輝かせている。空気には神聖な雰囲気が満ち溢れ、慈愛に満ちた思いが包み込まれていた。この美しい教会では、今日一組の新郎新婦を迎え入れる準備が整っていた。 これから新郎新婦が登場する聖堂の入口には、白い花が豪華に飾られ、光に反射してキラキラと輝いている。祭壇の前には、カラフルな装飾が施されたキャンドルが並び、その明かりが優しく会場を照らしている。 客席に座る人々は、様々なドレスやスーツを着ており、祝福の空気を一層引き
夕暮れどきのことである。女が、塔に吸い寄せられるように、街道のはずれを歩いていた。脂ぎった髪を垂れ下げ、土埃にまみれた履物を引きずっている。小刻みに吐き出される無声の呼気が、整えられていない前髪をふわりと跳ね上げる。 「ぁ……」 女が地面に足をとられた。躓きかけた女の発した、僅かな有声の音が空気を震わせる。周囲に波紋が広がる。虫、小動物、鳥。音を感知するあらゆる種々が彼女の側を遠ざかっていく。 「うぅ!」 女は苛立ちに足を踏み鳴らし、右手にある木々に向かって獣のような声