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シン・ヴィーガン[3/6]ヴィーガンは何をどう主張すれば良いのか

「健康」と「環境」を盾にすると詰む

現在、「ヴィーガンになったらこんないいことがありますよ」をアピールする時よく持ち出されるのは以下の2つである。
・ヴィーガンは健康に良い
・ヴィーガンは環境に良い
これらについて順番に検討していこう。まずは健康面。

ヴィーガンのサイトなどを見ると、
「サプリの併用も含めきちんとコントロールされたヴィーガン食は充分健康的である」
というような事が書かれている。
医者や管理栄養士はとかく「野菜の摂取量を増やしましょう」
と言う。
これはおそらくどちらも正しいのであろう。しかしそれは必ずしも「健康にとってはヴィーガン食がベスト」を意味しない。放埒な雑食よりはベターである可能性は残しているにせよ。
背理法で補足する。もしヴィーガン食、すなわち「動物性食品ゼロ」がベストであると仮定するなら、「動物性食品は須く身体に悪い」ということになってしまう。さすがにそれはありえないだろう。ヴィーガンのサイトには「牛乳は身体に悪い」「癌の原因は肉」みたいな事が書かれている事があるわけだが、いくら認知的不協和を解消するためとはいえ、そういう擬似科学に頼るのはもちろんプロモーションとしては最悪手だ。

環境に関して。
畜産は環境負荷が極めて高いので、それを野菜や穀物の栽培に振り替える事で、飢餓問題の解消だけでなく環境負荷を軽減する、という主張がある。これはある程度真実なのだろう。
しかしヴィーガンの理念はもちろん「畜産をゼロにする」である。しかし畜産はそもそも農業に向かない土地で行われてきたものであり、ゼロにすることはかえって負荷が大きいという主張がある。私は専門家でないのでこれらがどの程度正しいかはわからないが、少なくともそう主張する専門家がいるというのは確かだ。

つまり「肉を減らした方が健康的だ」「畜産を減らした方が環境に良い」はどちらもある程度正しい可能性が高いが、ヴィーガン社会に完全に移行すること、つまりそれらを単に減らすだけではなくゼロにすることをベストの選択と主張するのは根本的に無理があるということだ。

ヴィーガンはあくまで「動物の権利保護」で一点突破すべきである

だからヴィーガニズムを布教する際に健康や環境を主眼にすることは得策ではない。あくまでそれらは限定的な条件下においてのみ効力を発揮する「おまけ」に過ぎないからだ。結局ヴィーガンは「動物の権利を守る≒動物を犠牲にしない≒動物からの搾取を止める」生き方を選択すべし、という本来の主旨で一点突破するしかないのではないか。それを一続きの文章にするとこんな感じか。

「人間は動物の権利を侵害しない生き方を選択するべきです。すなわち、動物の命を奪わない、動物から搾取しない、つまり動物にいかなる苦痛も与えない。それは極端な話、個人の健康よりも優先されるべきことですが、幸いなことに入念にコントロールされたヴィーガン食は充分健康的です。また、この理念に則って畜産を減らすことは環境問題や飢餓問題をも部分的に解決します」

いかがだろう。これが広報部長イナダからの提言である。少なくともここを出発点にすれば不毛な揶揄は生まれないのではないか。ヴィーガンがいったい何を目指しているのかという点も明瞭だ。もちろんその出発点となる「動物の権利は守られるべきである」というテーゼに対しては即座に不同意を表明する人々もいるだろう。いやむしろ絶対数としてはその方が多数派かもしれない。しかし中にはそのことについて考え始める人々も一定数いるに違いない。布教の第一歩として過不足ないものとは言えないか。

ところが、である。ここまでかけた梯子を外すような話がここから始まる。
「動物の権利は守られなければならない」。確かにそれはその通りなのかもしれない。肉を食べたいという個人的な欲望よりもそれは優先されるべきなのかもしれない。そういう検討を開始したとしよう。しかしその検討はいくつかの壁にぶち当たるのである。

いや待てよ、その場合牛はどうなる? 牛という種は野生で生きていけるのか? 生きていけたとしても常に飢えや病気に苦しみ、そう長生きもできまい。もしかしたら牛は家畜のままの方が幸せなのでは?
ライオンに食われる草食動物はどうなのだ? 散々追い回された末に仕留められ、苦しみと恐怖の中で息絶える。それは屠畜より残酷なのではないか。
そのライオンとて、常に飢えに苦しみ、オス同士は血を流して争い、メスが連れた子ライオンはオスに惨殺されてしまうではないか。
これが私にとってはヴィーガンについて思考を巡らす際の最終の矛盾点(の一部)である。


この矛盾に対して厳格で理性的なヴィーガン、それこそミームさんのような人はあっと驚く解決策を提示する。それがアンチナタリズムだ。つまり非出生主義。次回以降はこのアンチナタリズムについて。

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