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和太鼓でつなぐ世界への架け橋 【和太鼓TOKARA】


この記事はフリーマガジン「伊那谷回廊 vol.1(2018年6月発行)」に掲載された、過去の記事です。

桜咲く飯田市に 和太鼓の音が鳴り響く

桜が散り始めた暖かい春の日、飯田の丘の上にある飯田市公民館から、和太鼓の音が鳴り響く。
館内の大ホールのステージで叩いていたのは、全員外国から来た人たち。

4月9日から13日までの5日間にわたり、飯田市を拠点に世界中で活動する和太鼓奏者、アート・リー氏率いるTOKARAが「TOKARA和太鼓ブートキャンプ」を開催した。

世界各国にいる「和太鼓を叩きたい、もっと上達したい」という人に向けて、プロの和太鼓奏者であるアート・リー氏が直接英語で指導するレッスン「伊那谷和太鼓情熱コース」が16年前の2002年にはじまり、毎年国内外で開催。世界各国にいる和太鼓ファン、TOKARAファンに知れ渡り、今では初心者向けとして「伊那谷情熱コース」、中・上級者向けとして「TOKARA和太鼓ブートキャンプ」の二つのコースで開かれている。

世界中から和太鼓を学びに集結・TOKARAメンバーが指導にあたる

今回行われている「TOKARA和太鼓ブートキャンプ」は2008年からコースが作られ、今年で10年目。参加者は毎年行う海外ツアーやインターネットでの告知で募集する。

もちろん日本人の参加もOKだが、指導はすべて英語で行うため、圧倒的に外国人の参加者が多い。

参加者は8カ国11人
伊那谷で和太鼓三昧の数日間を過ごす

今回は台湾、香港、オーストラリア、ベルギー、オランダ、ドイツ、スペイン、イギリスの8カ国から総勢11名が参加した。中・上級コースのため、全員が和太鼓経験者ではあるが、自国で和太鼓グループに属している人もいれば、自宅で一人で叩いて楽しんでいるなど、関わり方は人それぞれ。共通しているのはみんな「和太鼓が好き!!」という思い。


肉体的にはハードながらも、夢中になって叩き続ける参加者の皆さん


このコースでは毎日午前10時から準備のあと、30分ほどの打ち込みをする。
和太鼓経験者なら身に染みてわかると思うが「打ち込み」は正しい姿勢でただひたすら同じリズムを繰り返し叩く練習。汗だくになりながら集中して黙々と打ち込むが、慣れないうちは5分叩くだけでもものすごくハードで、全身に応える。この時点でさすが中・上級者向けといった内容だ。

その後和太鼓の基礎を強固にするリズム練習(ドリル)、そしてその日のメニューを練習し、16時まで和太鼓と向き合う。

スペインで和太鼓をやっているダケルさん・スイスでTOKARAの演奏を見てコースに参加


「日本で和太鼓を叩く」 静かな喜びが力強く響く

取材に訪れたこの日は、コース二日目。練習曲であるTOKARAオリジナル曲「POP」を叩く中、真剣な表情の中にも和太鼓が叩ける喜びが感じられる。リー氏を中心とした指導はきびしさの中にも笑いがあり、時折挟む休憩時にはそれぞれ充実した表情の中に、まだまだといった余裕さえも感じられる。

練習後半は二手に分かれ向かい合い、別々のリズムを叩き、ひとつの曲に仕上げていく。それぞれの人の頭の中で大量のアドレナリンが出ている様子が、その空気からひしひしと伝わってくる。

時にはバチが折れてしまうことも

あ力強く響く和太鼓の音に包まれながら最高の時間を過ごしているようだ。

ひとしきり太鼓を叩き終わり、最後は輪になってテンポよく一人ずつ手拍子
と掛け声を出しながらリズム練習をしてクールダウン。和太鼓三昧の半日が終わる。その後は市内散策や宿泊先の旅館でそれぞれ日本の滞在を楽しんでいるようだ。

練習で汗を流した後は、観光も楽しむ


母国アメリカで初めての和太鼓の音に涙

このコースの指導の中心は、TOKARAの代表、アート・リー氏。彼はアメリカで育ち、学生時代に日本の和太鼓グループの演奏を初めて見た時、感動
のあまり涙が出たという。その後すぐに地元のサクラメント太鼓団に入団し、太鼓人生をスタートさせた。学業の傍らアルバイトで生計を立てつつ、帰宅後は狂ったように深夜まで練習したという。

その甲斐もあって太鼓人生一年目にして日本のプロ和太鼓集団「鬼太鼓座」のメンバーにスカウトされ、それを機に1994年に初来日、鬼太鼓座のメンバーとしてツアーに参加した事がきっかけで、自身もプロ和太鼓者を目指すようになったという。

それから1998年に長野県に移住し、英語教師の仕事をしながら和太鼓の世界では誰もが知る御諏訪太鼓(岡谷市)の故・小口大八氏に師事。厳しい修行を重ねプロの和太鼓奏者となり、TOKARAを結成。飯田市を拠点に世界各国で活動を続けている。

数多い国内外での公演に於いては様々なやりとりや手配まで行い、舞台プロデュースまで行う多忙な中、なぜこのようなコースを開催することとなったのか。そこには彼の和太鼓に対する純粋で謙虚な思いと、日本の伝統文化に対する敬意が垣間見えた。

TOKARAリーダー、アート・リーさんは1998年にアメリカから移住


オリジナリティ溢れるTOKARAアート・リーの指導

アメリカに住んでいた頃から現地の和太鼓グループで活動していたリー氏は、アメリカと日本で和太鼓を経験する中、アメリカやヨーロッパなどでは和太鼓のことをもっと深く知ろうと思っても、そのチャンスが極めて少ないと感じたという。

アメリカでは和太鼓に関わる人たちの意識や考え方などが日本に比べて少ない・浅いと感じることが多く、肉体面や精神面、歴史的な事も「さらに深い部分」が存在することを伝えられないかと感じたという。

そこで、実際に日本で修行をし経験を積み、師匠からも指導許可をもらい活動をしている自分なら、海外の人たちにその「深い部分」を知ってもらうた
めの架け橋を作れるのではないかと、2006年に「伊那谷和太鼓情熱コース」を開催した。当時は国内外でもこのようなコースを開催している人はいなかったが、各国で評判を呼びリピーターも増え、中にはもう回ほど参加している海外の常連の参加者もいるという。

そうして続ける中、日本と海外で築いてきた架け橋をより強固なものにしていくため、和太鼓の深い部分が少しでもわかるようになり「もっと知りたい・勉強したい」と望む人がさらに上級を目指すコースを作った。それが「TOKARA和太鼓ブートキャンプ」である。

リー氏は「日本でも英語で和太鼓のレッスンを受けるが、実際に日本の地に滞在して、その空気に触れることは大きな意味がある。日本に多数存在するプロの和太鼓グループの演奏も、もっと見て触れてもらい、練習をする中で自分自身の壁を越え、心に火をつけてもらいたい。自国に帰って太鼓を叩く時も、太鼓の歴史や曲に込められた思いや意味を感じてもらえたら。」と話す。

英語と日本語で熱心に指導。時に笑いもあり、爽快感いっぱいの雰囲気の中で行っている。


ブートキャンプをきっかけに
世界に広がる、和太鼓コミュニティ


今ではこのコースの参加をきっかけに和太鼓コミュニティは世界に広がり、参加者同士がそれぞれの国を行き来する交流もあるようだ。

今年はアート・リー活動25周年の年でもあり、来年はTOKARA結成15周年の年でもある。

世界から評価され国を越えて和太鼓の魅力を伝え続けているTOKARAの、今後の活動にますます注目していきたい。

最後はおじぎで終わります
和太鼓TOKARA

和太鼓TOARA

TOKARAは、2004年3月7日、和太鼓アーティスト アート・リーにより結成された。和太鼓の厳しい心体の鍛錬を通して、新しいものの更なる追求を目的に、日本はもとより世界各地から太鼓経験者、パーカッショニストが集結、長野県飯田市を拠点に活動を開始する。以来、日本国内外で活躍、和太鼓界に大きな影響力を発揮。結成後、2004年春、6週間の北米大陸横断ツアーで、国際デビューを果たし、翌年2005年には約2倍のステージをこなす2ヶ月に及ぶツアーを決行。2007年5月、6週間のアメリカツアーではニューヨーク・ブロードウェイデビューを果たし、観衆を魅了、大成功を収めている。その後現在に至るまで、毎年数回にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカ、インド、オーストラリア、台湾などをめぐるワールドツアーを決行。メンバーは、年の半分をツアーで過ごす。
 このTOKARAのステージは、中国武術、舞踊の流れるような曲線的動作を取り入れた独自の振り付けのみならず、その驚異的なスピードとパワーが融合し、観る者を虜にする。
 世界の様々なリズムを取り入れたTOKARAの創り出す音楽は、ジャズの様でもあり、聴く者を魅了する音楽性の高さが評価されている。独自のステージをより発展させるため、常に新しい楽曲、プレースタイルを探求し、全く斬新なパフォーマンスを創り上げる努力を弛めない。一方で、伝統的な和太鼓の楽曲の追求にも努め、日本各地に伝わる伝統曲の習得に励みTOKARA流に編曲し演奏している。

グループを率いる 和太鼓アーティスト アート・リーは、現在の太鼓界をリードするトップ奏者の一人として活躍。2001年、和太鼓ソロ奏者として、世界で初めて日本政府より芸術ビザを取得。以来、現在に至るまで唯一の外国籍和太鼓アーティストとして日本はもとより、世界に活動の場を広げる。又2005年には、和太鼓界で最も権威ある『東京国際和太鼓コンテスト・大太鼓部門』において、外国人初、唯一となる最優秀賞を受賞。

TOKARAは演奏活動の傍ら、後進への指導、和太鼓の普及の為、独自の研修プログラム・イベント等を企画、実施する。特に、海外の和太鼓経験者を対象に、伊那谷和太鼓コース(初心者向け)、TOKARA和太鼓ブートキャンプ(中級者、上級者向け)を企画。本場の和太鼓に触れる機会を提供するととに、1週間集中的な指導を体験できるこれらのコースには、毎年多くの参加者が来日、好評を得ている。又、『幸い下伊那和太鼓フェスティバル』と題し、太鼓奏者の交流の場を目的に主催するコンサートには、国内外から太鼓グループが参加する。

取材・撮影:北林 南


フリーマガジン「伊那谷回廊 vol.1」での特集紙面

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