塔の上

 まるい部屋は石を積んだ無骨な壁でできている。窓がひとつ。鍵のかかっている扉もひとつ。あとは乱雑に積んであるダンボール箱。一番上の箱は天井につきそうなほどだ。
 なにもはまっていない窓から外を見おろして、息を吐いた。ほんとうにここは窮屈で苦しくてたまらない。
 自分が入れられているここは塔の上だ。それもかなり高いらしく、小鳥が窓より低いところを飛んでいた。窓下に生えている樹木の高さから見ても、ここから飛びおりたら命はないと教えてくれる。
 はあ。壁にもたれて座り込むと、鎖がちゃりちゃりと鳴った。裾からのぞいた左足首には鉄の足輪がしっかりはまっている。そこから繋げられた鎖は細い割にしっかりしていて、壁の一箇所に留められていた。室内を歩くにはじゅうぶんな長さだが、見える束縛がさらに気を重くさせた。籠の鳥でも鎖なんか使わないのに。わざわざつなぎ止めなくともあの高さから飛び降りる気はないさ。そこまでばかじゃない。
 ダンボールを蹴り上げた。空の箱は軽い音を立てて崩れた。はああ。

 解錠の音がして、いつもの彼が入ってきた。
 自分と同い年くらいの彼は、蹴り散らかされた段ボールを見て悲しそうなため息をついたが、すぐに気を取り直した。今持ってきたダンボール箱を床に置いて言った。
「いいかい。今度は」
「いらない」
 箱のなかを知る前に断った。ご機嫌を伺う贈り物なんかいらない。
 いつものように彼はすこしムッとする。
「あれもこれもすべてキミのために持ってきたのに! 思っていたよりキミはワガママだよ。そこは自覚してる?」
 ワガママはそっちだろう。と抗議したいが今までなにを言っても無駄だったので(結果がこのダンボールだ)黙って目を反らした。死ぬまで顔も見たくない。
 しばらくして彼が口を開いた。
「じゃあ聞くけど、キミはいったいなにがほしいんだ?」
「……これ、外して」
 鎖を見せると、彼は青ざめてうろたえだした。いつものことだ。
「それはダメだ!! 絶対にダメだ!! キミは出てはいけない、ここから出てはいけないんだ!」
「そうなんだ」
「何度も言っただろ。キミはここにいるのがキミにとって一番いいんだ。だからこれは、ね?」
 思いが通じないまま彼と一緒に違う息を吐いた。

 いったい、いつまで。