人間レベル

 会議室で仲間と話していた。みんな同じ、つるんとした病衣服を着ている。これから検査なのだ。
 サイレンが鳴った。チェックが始まる合図だ。整列しなければ。
 右に立つロングヘアがさみしそうにつぶやいた。
「私なんてダメだよ……。レベル1だもの」
「そう? そうは見えないけど」
 左に立つショートヘアが顔を覗かせてなぐさめる。しかしロングヘアは首を振って、私なんてとくり返した。
 確かに上はレベル5まであるけど、彼女らはレベル3くらいのはずだ。仕事の早さ、判断力、人柄、どれを取っても中より上といっていい。
 自分は仕事も遅いしミスも多いから、レベル1なのは目に見えている。最低レベルでも落ち込むどころか、それでいいとさえ思ってる。レベル1は誰にも相手にされないから、気楽で過ごしやすい。だから「レベル1」=ダメと言う仲間の言葉は当然だと思う。
 だけど自分は今ここで優秀な仲間に受け入れてもらっている。自分もうれしく、仲間の寛容さも誇らしい。だから落ち込まないでほしいと思った。
 ショートヘアがロングヘアに話しかける。
「ほんと? あなた、レベル1?」
「きっとそう。あれもこれもダメだもの」
「そう思わないけど」
 自分も「そう思わないよ」と言ったが、ロングヘアは「でも」と顔をさらに曇らせたので、言うつもりのなかった言葉が口に出た。
「そんなにレベル1は悪いこと?」
 ロングヘアが言葉を詰まらせたとき、うるるるるというエンジン音が近づいてきた。
 るるるるるると音を上げながら古いUFO(チェックと呼ばれている)が窓の外に現れた。そこから乱暴に自分たちにライトを当てる。ライトが当たっている間だけ、胸の上に数字が浮かび上がった。
 1
 ほらね。自分はレベル1。
 ライトが外れると数字は消え、ほかの仲間に当てていく。1、2、1、2、2と次々数字が浮かび上がっては消えた。次第に会議室の中がざわめきだす。
 それもそのはず、3がいないのだ。驚いた。前回はかなりの数が3だった。ロングヘアもショートヘアも3だったはずだ。それなのに彼女たちまでレベル2に落ちていた。また当局がレベル基準を上げたんだろう。
 チェックが別の棟へ飛び去っても、誰もなにも言わなかった。落ち込んだ雰囲気のなか、自分はどうとも感じなかった。レベル1のままでぜんぜん構わないから。
 そもそもレベル1はそんなに悪いこと?