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投資信託のコストの現状と目安

個人が資産運用をしようとした場合に、一番ハードルが低いのはファンドを買うことです。現実的には公募投信かETFが選択肢に入って来ると思います。少額からでも分散投資できますし、購入後のフォローも市場全体の動きを見ていればなんとかなります。
※テーマ型等の特化した運用戦略のものだとファンドの基準価額も見たほうが良いですね。

投資信託のコストをめぐる意見と現状

さて、今日のテーマは投資信託のコストです。

「個人向けの投資信託の手数料が高く投資家のためになっていない」という批判は以前からあります。2000年以降にネット証券(オンラインブローカー)が台頭して、現物株の売買手数料は大変安くなりました。同時期くらいから、コストに敏感な投資家やFPによる「売れ筋の投資信託は高コストで投資に値しない」という批判が経済誌やマネー誌で紹介されるようになりました。
また、今月で退任する金融庁の森信親長官は「販売会社(銀行や証券会社)がグループ内の運用会社に売りやすい投信を作らせて高い手数料を取る」という業界の構造を問題視し、任期中の重点課題として取り組んできました。
この森長官の行政はそれなりに業界に影響を与えており、特に新発のインデックスファンドの信託報酬は大幅に安くなり、ノーロード(販売手数料なし)のファンドが増えました。新興国を含む海外株式に分散投資する投資信託が、購入手数料なし、信託報酬年間0.20%前後で買えるようになったことは、個人が資産運用する環境の大幅な進歩だと思います。

とはいえ、コストが高い投資信託が投資家から見放されて駆逐されたのかというとそんなことはありません。
投信評価会社のモーニングスターが集計する直近の純資産残高ランキングを見ると、日銀が金融政策でシコタマ買っている日本株のETFを除くと、上位は米国のハイイールド債(フィデリティ・USハイ・イールドF等)や米国のREIT( 新光 US-REITオープン等)、テーマ型のファンド(グローバル・ロボティクス株式ファンド等)など、金融庁が批判の槍玉に挙げていたものが依然として多いです。ハイイールドとリートは米国の金利上昇もあって資金流出傾向みたいですが。

販売手数料と信託報酬の目安

上で書いたような経緯で、現在の投資信託マーケットは、手数料水準が結構2極化しています。ぐちゃぐちゃになっていると言っても良いと思います。販売手数料と信託報酬に分けて見ていきましょう。

販売手数料(購入時手数料)
販売手数料というのは、投資家がファンドを購入したときに、銀行・証券会社などの販売会社が取る手数料です。運用会社には入ってきません。目論見書や投信協会の資料では「購入時手数料」という言葉が使われます。同じ意味です。制度的には、投資信託を設定する委託会社(運用会社)が上限を決めて、その範囲内で販売会社が各社で決めます。日本で現在販売されている公募投信の販売手数料のレンジは、だいたいゼロ(ノーロード)から税抜き4%までです。なんでこんなに違うのかと言われて合理的に答えられる人はいないと思います。商品の複雑さ(複雑なものほど高い)や競合するファンドの手数料水準(だいたい同水準にする)を見て、売るときに支障がなさそうな料率にしているのだと思います。
完全に筆者の私見と経験なのですが、水準の目安を書いておきます。

0%・・・いわゆるノーロード。コストに敏感な投資家をターゲットにした商品。インデックスファンドが大部分ですが、あえてアクティブファンドで販売手数料ゼロにする商品もあります。また、積立NISAの対象商品にするためには手数料をノーロードにしないといけないので、積立NISA用に近年設定したファンドもここに入ります。

~1.5%・・・対面販売チャネルで売るときのインデックスファンドがだいたい0.5%くらい、日本株のアクティブファンドやマイルドな運用方針のバランスファンドが1%~1.5%くらい。

~2.5%・・・外国債券のファンドが2%くらいのイメージ。

~3.0%・・・外国株や外国REITのアクティブファンドが3%の手数料を取ることが多いです。現物に投資するプレーンなファンドでも、通貨選択型にしたりカバードコールを付けた商品でも、外株のアクティブファンドであれば販売手数料3%にしているような印象があります。

3%超・・・ヘッジファンド的な戦略のものなど。数は少ない印象。

信託報酬(運用管理費用)
信託報酬というのは、ファンドの運営にかかる費用です。販売手数料は買ったときだけですが、信託報酬はファンドを保有している期間を通じて掛かります。料率は年間X%というように定められています。交付目論見書だと運用管理費用という言葉が使われますが同じ意味です。ファンドの内側で控除されている費用なので少しわかりにくですが、運用報告書では1万口あたりの費用明細を金額ベースで開示することが義務付けられているので、参考にすると良いでしょう。
「信託報酬」という名前が良くないためだと思うのですが、信託銀行が持っていく費用だと勘違いする人もいます。実際は、運用会社、販売会社、信託銀行の3者が受け取る費用です。だいたい運用会社が5-6割、販売会社が4-5割、信託銀行が3ベーシス(0.03%)くらいです。
現在販売されている投資信託だと、信託報酬はおおむね0.10%から2%のレンジに収まると思います。

~0.10%・・・日本株のETFだと信託報酬が0.10%を切るものもいくつかあります。

~0.7%・・・ここまでのレンジに、公募のインデックスファンドがたくさんあります。基本的に最近のコストに敏感な環境で設定されたファンドの方が料率が低いです。例えば「eMAXIS Slim先進国株式インデックス」は0.12%です。同じ投資方針(MSCIコクサイ連動)で10年前にコスト競争力があった「SMTグローバル株式インデックスオープン」が0.5%程度の料率だったことを考えると隔世の感があります。
また、バランスファンドで、資産毎の投資配分をあまりいじらないプレーンなものもこの範囲内にあります。

〜1.5%・・・日本株のアクティブファンドや、機動的にアロケーションを変更するギミックの付いたバランスファンドがここら辺です。

〜2.0%以上・・・外国債券アクティブが1%台後半、外国株アクティブだとジャスト2%程度が多い印象です。ハイイールド債券、米国REIT、米国高配当、テーマ型の外株ファンド(グローバル○○株ファンド等)はここに入ります。

〇〇
上で記載したように、投資信託の販売手数料や信託報酬は雰囲気で決まっている節があります。ただ、投資信託を作るのにも売るのにもコストがかかるということも事実です。最後に、ちょっと業者側の視点も入れておきます。

公募の追加型投資信託は日本で一番メンテナンスに手間がかかるファンドの形態だと思います。半年毎に有価証券届出書を更新して、投資家には運用報告書を交付します。会計監査を受ける必要があるし、追加型であれば設定解約を毎営業日受け付けないといけません。
また、諸外国と比べると日本の金融機関は事務ミスに不寛容です。例えば、証券と資金の受け渡しが予定通りに行われなかった(フェイル)ため、別の売買に必要な代金が支払えなくなった場合は、止むを得ずファンドが資金を借り入れて支払いに当てる(金利相当分は運用会社が補填)ことも想定しないといけません(OD(オーバードラフト)と言われます。)が、これをやると事務ミス扱いで大仰な顛末書を求められたりします。

そう言った点を考えると、外国株のファンドで信託報酬が0.2%切るようなファンドは結構ギリギリなんじゃないかと思います。もちろん、これはマザーファンドを機関投資家向けのファンドやバランスファンドと共有しているから出来ている日系大手ならではの商品戦略だと思いますので、低コストのインデックスファンドを求める立場であれば効率的に活用したいものです。

以上になります。「投信のコストってなんでこんなにマチマチなの!?」という疑問をお持ちの方の参考になれば幸いです。

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