きらめきに溺れていたい、理想重ねて。
いつの間にかどこかへ飛んでいった希死念慮が、ふと気がつくと部屋着のTシャツの裾を当たり前のように引っ張っていた。
ヒプステのtrack1だ。フォロワーに貰ったこれを私はめちゃくちゃに着倒している。下は確か中学生の時に母が買い与えてくれたテキトーな黒ジャージ。ノーメイクにメガネ、食事とお手洗い以外でベッドから起き上がることもなく今日が終わった。
私が茶の間を許せる唯一の理由はこれでしかない。
配信ならどこでどんな格好をしてどんな状態で見ていたって許される。だってお金を払ったのだから。
この許しと救いが、私にもう一度ミュージカル刀剣乱舞を見せ、なんとか夢を見せて、そうしてここまで連れて来た。
限界だった。確かに人間として私は一度終了し、職と住処を変える事でなんとか生き続けることを選択した。
これは最近気付いたことだが、私は社会人になってからの記憶をわりとごっそりと消しているらしい。記憶喪失とかそういった楽しい事件性のあるものではなくて、ただ舞台にしろ仕事にしろ様々に、その時出会った人、買ったブロマイドのしまい場所、冷蔵庫のヨーグルトの賞味期限だとか細かいことだけじゃなくて、いつどの舞台を見ただとかの時系列、その時着ていた服や感じたことといったおおよそ忘れるはずのないものまで姿を消している。というよりは「その記憶があった場所だけを覚えている」という状態に近いのかもしれない。引き出しを開けると、中身は空だ。
壊れれば元に戻らないのは人間の精神も同じだ、というソースも何もあるのかわからないツイートの通りになるのが嫌でいらいらむかむかする。なんとなくその通りになるのが気に食わない。「壊れれば戻らないから気をつけろ」というばかりで、壊れたあとにどうなるのか、壊れた人はどうすればいいのかなんて誰も教えてくれないからだ。まぁ、お医者様にかかれ、と言われてしまえばそれまでだけど。
私はもう何もかもを覚えておけないのかもしれない。
たった1年前に間近で見たはずの推しの村雲江の笑顔をもう、思い出せない。そう書いていて思い出したが、まだ終わって8時間ほどしか経っていないのにさっきの夜公演でどんな顔をしていたかももうあやふやだ。
セトリは覚えた。立ち位置も。そういう情報的なことは覚えていられるのにどうして、好きな男の表情ひとつ心に留めておけないんだろう。ステップはどうだったか、豊前の肩を揉む時どちらを向いていたか、ポイを回す手つきはたどたどしくなかっただろうか。全部確証が持てない。私はいったい何を見ていたんだろう。
福井には行かなかった。
決して行けなかった訳ではない。配信があるから、会場行ったことないし遠いから、交通費もかかるから、言い訳を並べて逃げただけだ。
怖かった。
センターなんてある訳なくて、どこかでソロパートすら貰えるかれさえわからなくて、そもそも何曲ステージに立てるものなんだろうって、怯えて。
その結果がこれ。
こんなに曲数少ない中でデュエット貰えるなんて!最高!!チケット増やせるだけ増やさなきゃ!東京は全通しよう!!!!
いや、馬鹿か。
フォロワーに言われるまでこれが会場替わりの可能性すら考えなかった。
だってソロは兼さんと松井だったし、会場替わりメンのやつ以外に途中で曲が変わるなんて思っても見なかった。
「よくて5月いっぱいじゃないですか?」
気を使ってそう言ってくれたフォロワーの優しさが苦しかった。
すぐにTwitterで「Just time 雨雲」で検索した
源氏のオタクは怒っているようだった。オープンアカウントですらこれだから鍵はもっと酷そうだと思った。
犬のオタクですらない女が上から目線で推しに「まぁ良くやったんじゃない」なんて言葉を投げる
お前はこんな大きなステージに立ったことがあるのか
お前はここに立つまでにこの子たちがしてきた努力を知っているのか
私は知らない。知らないけどこうやってこのぴんくの犬を推している。
歌も下手で、ファンサも下手で、構ってほしいのに自分から動けない、いじらしいこの子を大好きでいる。
頑張ったね、と思う。
彼らの音域にあった、ニコイチのかわいらしさが発揮できる素敵な曲を貸していただいたな、と思う。
アクロバットも回転も、息切れなしの抜群の歌唱力もない。
それでも、あの演目の中で唯一、全くもって関連のない持ち歌でもない曲をたった2人だけでやりきった。
それだけでよかった。
もう全部どうでもよかった。
私はきっとチケットを増やすんだろう。
どうにかして愛知に向かおうとするんだろう。
このきらめきに溺れていたかった。
永遠が欲しい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?