そんなものどこにもない


千秋楽の夜が、秋の風を連れてゆっくりと降りてくる。


ほんの数十分前までただのプラスチックの棒だったものたちがどこまでも鮮やかな光の海に変わっていく。

これが好きなの。だいすきなの。
ミュージカル刀剣乱舞を、私は確かに愛してたよ。


ながたさんの、ううん、くもくんのファンサっていうのはいつもなんだかちょっと可笑しくて
ついつい笑っちゃう不思議な微笑ましさがある。

あのひとは、最初にぐるっと周りを見渡して自分のオタクはこことここにいるなって、こいつはうちわを持ってるなってこの後のファンサのプランを立てる
そうして、最初にあたりをつけたオタクたちに順番に丁寧に、ここでこれをやるぞって決めてたファンサを撒いて行って「やり切ったぞ」って表情にちょっと出ちゃう

江おんの時はこの辺りの座席のオタクにこの曲のこの箇所でこのファンサをします、というのが明白に決まっていたから、私はそれはもう躍起になって該当の席を探して
そうして何度か入って、狙った時は毎回固定ファンサ貰えなくて、それで毎回毎回、新鮮に悔しい思いを抱えて泣いてた


いまはもう、もう限界で
だってまだ、また好きでいられるかなんてどこにも保証がなくて
出演情報が出てても、メインビジュアルが出ても、チケット抽選が、発券が、カウントダウンが始まっても実感なんてどこにもなくて

初日始まって、くもくんだけ出てこなかったらどうしようって、いつでも最悪ばっかりが頭の中を巡っていた



それでもね、行くって決めたんだよ
いつの間にか取れていた有給と8枚のチケット。
もう後には引けないって決めた宿。

江おんの時に買ったでっかいピンクのキャリー。
首にはチョーカー、いつもの肉球ポーチをぶら下げてバスに乗り込む。


復帰するって決めてくれた時の、お誕生日のあの日の、別の人みたいになってしまったお顔といつも以上に言葉が出てこない配信を見て、それで毎日のように泣いてたの。お風呂とか、通勤の電車を待つ間、会社のトイレで涙が出てきたこともあった

いま、オタクが頑張らなくていつ頑張るんだろう
今しかない、この時しかないの。だってこれが、これが最後なのかもしれないんだよ

さよならを言うために帰ってきてくれたかもしれないんだから
だから毎日、さよならの覚悟をするよ。終わりの日まで。


怖かった。
ピンクの服を買い足しては泣いて
カウントダウンのアプリを入れて泣いて
まつぱにネイルにいつもの準備

そうして初日の前日に、ピンクのエクステをつけた
家に帰って鏡を見て、最後にもう1度、大笑いしながら泣いたの


私の心配なんてなにひとつ本当にならなくて
すえひろがりはずっと最高で楽しかった

さんざん拗らせたかつての刀ミュのオタクはすっかり成仏したし
くもくんはにこにこしながら通路を走っていって
旗と歌は相変わらずへたくそで
毎日ちゃんと花火が上がった

歌って欲しかった曲はほとんどやってくれた。
あぁ、これが欲しかったんだって、自分でも気付いてなかった欲はすっかり満たされていって
これで最後だなぁってぼんやり思ったの


宿であったオタクたちは大体みんないいひとで
くもくんのブロマイドを貰ってくれたし
ランダムの交換をしてくれたし
一緒にコラボフードを食べたりパネルの写真を撮って
子供みたいにきゃーきゃーはしゃいだ

そうしてみんなと「またどこかで」をしてお別れしたけど
私はもう、ながたさんに村雲江をやって欲しくない。

来年に乱舞祭があっても行けるかわかんない。
いまのミュージカル刀剣乱舞は、たぶん私の愛した刀ミュじゃない。
東京心覚を、いまだに許せない。

ながたさんを見つけられた時の役を、今まで散々、何回も何回も、現地では39回(さっき数えてみてびっくりした)(しかもオダイバを数に入れてなかったから本当は40回だった)みたくもくんを
私は本当に心から、何ものにも変えがたく深く深く好きでいるけど
でもさ、あなたが苦しいならそんなのなんにもひとつもどこにも意味なんてないよ。ね。


そうやって思ってたの!ほんとに!
自分のオタク順番に撃ち殺して笑ってるの見て、何にもわかんなくなっちゃったけどさ。



ねぇ、もっと大きな役が欲しいね
刀だけに頼らないでいるための大きなお仕事

あ、仮面ライダーおめでとう。ハイトーンはお仕事だったんかい。定期的にしてよあれ。
オタクはいま普通に病んでるからちゃんと見れなかったらごめんね。


ねぇ、私のだいすきにひとつも嘘偽りはないよ
ちゃんとしてないオタクでごめん
中途半端に?この程度の?覚悟しかなくここまできちゃってごめんなさい


ねぇ、あなたのくれる全部がだいすきで宝物だって言ったのだって本当なんだよ

勝ちに行くぜで光世に笑いかけたり
だいすきで桑名と徒競走はじめたり
革命前夜で見せてくれる真剣な顔
百万回で江おんの時みたいにベルをガンガン振ったり
MCはやっぱり元気で感情ひとつも入ってなくて
オタクがはしゃいだり死んだりしてんの見て毎日ウケてたね
あんなに近くで貰った目線も
振り変えてバーンって撃ってくれたのも
くもくん、って呼んだのに気付いてくれたのも

たぶん絶対生涯忘れないと思うんだよね
考えてるだけでにやけちゃうくらい大事だよ
きっとこの先ながたさんがどうなっても、私がどうなっても変わんないんだろうなって

降りたくないよ、ずっと好きでいたいよ、
嘘じゃないってどうやったら信じてくれる?




ばいばい大好きな刀ミュ

ばいばいAiiAに向かう道をヒールで駆け抜けた19の私
ばいばいブリーチしてぴんくに染めた髪をハーフアップにまとめた私

ばいばい思い出の中の全部


刀ミュオタクのあたしは
永遠に江おんとすえひろがりのあの2ヶ月と少しの間に
置いていきます。あれがあたしの永遠です。
覚悟で、本気で、真剣で、必死です。



はやくあたしを演技で殺してよ

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