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「アンテナを張る」という言葉が嫌い

こんにちは。一人称です。

私、「アンテナを張る」という言葉がどうにも嫌いなのです。

ビジネスでよく使われる「アンテナを張る」という言葉は、「情報を摂取し続ける」「視野を広げる」みたいな意味で使われることが多いと感じています。しかし、「張る」という言葉の”面積感”から分かるように、そこらを飛び交う情報をクモの網のように引っ付ける、というイメージがありまして、この受動性にとても違和感があるのです。

アンテナという言葉から想像するのは、おそらくパラボラアンテナでしょう。スカパーとか。パラボラは放物面というその形状を利用して、弱い電波を一点に集めることで電波の強度を上げ、情報の精度を高めています。参考:大科学実験

情報にあふれる現代で、アンテナを実際に触ることってあまりないですよね。スマートフォンにも入っているわけですが、もちろん見えません。なぜなら、「張る」ことを抜きに電波を探知できるから。*1

アンテナの本質は、別に「張る」こと=パラボラの形状うんぬんではなく、感知した電波を電流に変えることです。電波を集めただけでは情報を読解することもできません。つまり、あえてビジネスにメトニミーすれば、「アンテナ」の機能は、得た情報を自分なりに咀嚼することだと思うのです。

確かに「アンテナを張る」、というか「パラボラを張る」ことは重要かもしれない。色んな情報をキャッチすることは重要です。けど、現代では、別にパラボラを張らなくても、否が応でも情報が目や耳に集まってきます。そんな現代で、二次元的に「張った」だけのパラボラに集まってくる情報は、非常に指向的なものなのではないか、と思うのです。パラボラは中心軸と平行に流れてくる電波しかキャッチすることができません(そのため基地局の巨大なアンテナは自動で角度を変えることができるのですが)。SNSを眺めているだけの時間と一緒です。

むしろ、パラボラを閉じて、自分から今まで接したことのないメディアの山、情報の海、もしくは目の前に広がる世界へと分け入って、知らない情報を獲得し、噛み砕くことが必要なのではないか、と考えます。

昔の記憶をたどってみると、携帯ラジオや携帯電話(ガラケー)についていたアンテナは、金属棒を伸ばすタイプでしたね。結局は空気中を漂っている電波をキャッチするだけなので内容は変わりませんが、伸ばすという自主的な行動が含まれているので、「アンテナを張る」より「アンテナを伸ばす」のほうが良い。

Antennaという語は、もともとは昆虫の触角という意味らしい。自分で触って周りの情報をキャッチすることですから、より主体的。人間には触角はありませんが、皮膚全体で触覚を感じることができます。もしくは、手という敏感な触覚器官を使って、新たなものを作り出すことができます。わざわざ機械や昆虫になぞらえなくても、人間は十分素晴らしい感覚器官を持っているはずなのです。まあ今「触角」っていうと女性の髪型になってしまいますが…(触角って呼び方そもそもどうなの)。

昆虫の触角(=アンテナ)では、触覚だけではなく嗅覚や味覚も感じられるようです。*2 こうした身体的、空間的、接触的なコミュニケーションは、コロナ禍で難局を迎えている一方で、逆説的にその重要性がひしひしと感じられていると思っています。「百聞は一見に如かず」という言葉がありますが、「百見は一体験に如かず」とも言えるのではないかと、視覚偏重な現代を憂いたくなります。

結局何が主張なのかが不明確になってきましたので、整理します。

①「情報を得る」「視野を広げる」という意味で「アンテナを張る」という言葉を使うのは時代錯誤・意味錯誤では
②「情報を見極め、咀嚼する」という意味で「アンテナ」という言葉を使うのは原義としては近いが、「張る」は受動的でおかしいのでは
③アンテナを張って待つよりも、自分で主体的に情報源を増やしていけ

こんなところでしょうか。自戒を込めて。

むりやり論理的に組み立てましたが、アンテナを張るっていう言葉が嫌いなだけです。ダサいと思う。機械としてのアンテナよりも、触角としてのアンテナを研ぎ澄ませていきたいなと思いました。それでは。

*1 スマホにアンテナがないのは、アンテナの技術が上がっているからというよりも、スマホに使う電波の波長が短くなり、その分アンテナが短くても済むから、という理由らしい。通信速度の上昇を求めた結果「アンテナを張らなくて/伸ばさなくて良くなった」というのは、SNSに浸る現代人への皮肉のようでもある。https://www.hummingheads.co.jp/reports/feature/1202/120220_02.html

*2 立田栄光『昆虫の感覚情報伝達機構』(1962)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/14/11/14_11_703/_pdf/-char/ja

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