好きな人の親友だった人

その人と付き合うことになったと報告した時の友人の顔を、私は未だに忘れられない。
友人は「軽蔑」と「理解不能」をしっかりその表情に表したうえで「どうして?」と尋ねたが、彼女を納得させられる回答が何も思い浮かばず、私はただ逃げるように笑うしかなかった。


中学生の初夏、私に初めて「彼氏」ができた。
その「彼氏」は、つい前日まで私が友人にキャッキャと話していた「私の好きな人」の「親友」だった。


私はその頃、高校生のバンドマンに片想いしていた。

だけど、彼と付き合いたいという願望は微塵もなかった。
私はまだ垢抜けない中学生で、相手はイケイケの高校生バンドマン。しかもイケメン。
万が一付き合えたとしても、即破局することぐらいいくら脳内がお花畑であるにしても想像に容易い。
そんなくだらない結末はあってはならない。
「浅く長く彼の人生に介入し続ける」
これが当時の私の目標であり、理想だった。

そんなことを日々考えながら彼の周りをうろついた。浅はかなその頭で「まずは外堀を埋めよう」と彼のバンド関係者に愛想を振りまいた。
その過程で偶然釣れてしまった男性が、彼の「親友」であり、彼の「バンドのギタリスト」であり、私の初めての「彼氏」となるその人だった。

この人の彼女になれば彼に近づける。

「付き合ってほしい」と照れながら言うその人の言葉に私は迷いなく頷いた。
「好きな人の親友の彼女」
私にとって、それは最高のポジションだった。

私は少しでも彼に自分の良い情報が伝わるよう、「彼氏」に誠心誠意尽くした。
だから「彼氏」との関係はとても良好で、万事上手くいっていた。
上手くいっていると思っていた。


しかしその冬、私は好きで好きで仕方なかった初恋のその人に何故か突如突き放されることになる(前回note参照!)。

何故彼が突然私を拒絶したのかはわからない。
理由も経緯も全くわからなかったけれど、とにかく彼とはもう会えないのは事実だった。
その事実が揺らがないのなら、理由も経緯ももはやどうでもよかった。

こうして、私は呆気なく好きな人の人生に介入する資格を失ってしまったのだった。


彼がいなくなってしまった後「彼氏」と付き合い続ける理由はなかった。
私は「受験」だとか「家庭の事情」を盾に「彼氏」から逃げ出した。
そうして、私の初交際は僅か数ヶ月という短期間であっさり終了した。


「元彼」に対しては、当時も今も特段罪悪感を抱けていない。
罪悪感を抱けていないことに対する罪悪感を少し抱いているぐらいだ。
余談だが、その後の人生においても私は特別好きではない人と毎回付き合い、それはそれは平和で幸せな数年を過ごし、「結婚」というワードが出ると慌てて破局するというようなゴミのような恋愛を繰り返している。
これは全てあの初めての「彼氏」の呪いなのではないかとたまに思うこともあるが、なんてことない、ただ私の脳味噌と感情機能のバグのせいである。
早くなおってほしい。