メモ(印象深い東方Project二次創作小説・小説投稿サイト『ハーメルン』から20作)

本年1月に、『東方Project』(同人サークル「上海アリス幻樂団」による著作物を中心とした作品群、1996年‐現在)の二次創作小説を30作品挙げました。前回「おわりに」でも記しましたが、まだまだ言及したい作品があると感じています。(前回記事は以下のリンクから閲覧できます)

本記事では、前回と合わせてキリよく50となるように、20作品を挙げたいと思います。今回は、小説投稿サイト『ハーメルン』(2012年7月‐現在)に掲載され、閲覧可能な小説に挙げる作品を絞りました。また、クロスオーバーの比重が相対的に大きい作品、2020年現時点では未完の作品なども挙げてみました。とはいえ同サイトに投稿された全ての東方二次小説(5000作以上)の内からすれば、言及できたのはわずかな作品数であること、ご寛恕ください。

◆東方Project二次創作小説・『ハーメルン』から20作(順不同)

1. かしこみ巫女『ゆうかりんか』(2015‐2016)

長編(原稿用紙1800枚程度)。リアルの記憶はないが「原作」の知識を持っている主人公が、剛力と苛烈さで知られる恐るべき花の妖怪の家で、娘として育てられ、生きようとします。悪循環が強いられる環境の謎に迫っていき、終盤「ひぐらし」的な仕方でその悲劇的運命に対峙する展開は、劇的です。東方n次創作のジャンルが賦活する可能世界的発想を活かした、佳作です。

2.puripoti『私に友達ができないのはどう考えても幻想郷が悪い』(2013‐2014)

中編(原稿用紙290枚程度)。前半では花の妖怪が幻想郷の各地をめぐりそこで出あった人妖らと対話します。飄々と無法との反転の容易さが花妖怪の挿話を能弁に描く語り手を通して浮き彫りになります。後半では花妖怪の日々を通し知覚困難だが側にいるものとの関係性が浮かび上がってきます。

3.べあべあ『フランちゃんは引きこもりたかった?』(2016‐2017)

長編(原稿用紙400枚程度)。「原作」の知識を持つ(ただし歳月の経過により風化)主人公が吸血鬼の妹として、姉やほかの妖怪たちと「家族」をつくっていき、己に悩み「家族」を離れ、花妖怪の下で過ごし気づきを得て戻るまでが「原作」の流れを踏まえつつ描かれます。いわば「貴種」の成長譚です。

4.SoCOi『うつろの底で 抱きしめて』(2016‐2017)

短編(原稿用紙70枚程度、未完)。『虚ろの底で 抱きしめて (旧版)』(未完)の「実質的な続編」です。妖怪狩りの心得がある不死人がかつて狩った妖怪に似た小さな妖怪を家に住まわせており、その関係性に伴う情緒が、不死人に恋する兎妖怪ほか、様々な人物との交流を通して描かれていきます。

5.Gasshow『いないいないばぁ。』(2016)

中編(原稿用紙200枚程度)。シチュエーションパズル(例えば『ポール・スローンのウミガメのスープ』などで知られる)の体裁をとった連作短編となっており、「勘違い」ものとしても読める作風です。一種の暗鬱ないしは陰惨な心情や境遇などを、東方Projectの設定とうまく絡めて描き出しています。

6.ごぼう大臣『幻想郷の怖い話』(2016‐2017)

長編(原稿用紙630枚程度)。飯島健男(現・飯島多紀哉)のシナリオで知られるホラーゲーム『学校であった怖い話』(1995)を東方SSに落とし込んだ作品です。90年代の「サウンドノベル」の様式を踏襲しており怪談よりむしろ都市伝説(陰謀論やゴシップ含む)風味です。「実話」ものの味わいがあります。

7.南蛮うどん『俺の家に巫女がいる』(2014)

短編(原稿用紙90枚程度)。薄氷の上に成り立つ二者の「平凡な日常」とその危機を描く作品です。物語世界の終末感(「原作破壊」にも似た)はさながら「ファウスト系」の諸作(あるいは、ちゅーばちこちこ『金属バットの女』(2015)さえも)を思い出させます。殺伐とした亜種「セカイ系」二次創作?

8.三羽烏『495年間、一回もお外に出てないの』(2012)

短編(原稿用紙16枚程度)。『東方紅魔郷』(2002年)のセリフを活かした小咄で「勘違い」ものの体裁が取られているといえます。主に吸血鬼の姉に焦点をあてつつ、地下から出たことがない妹をめぐるやり取りが描かれています。妹の外出をめぐっての嘆願の描写の反復が、文脈と相まって効果的です。

9.納豆チーズV『東方帽子屋』(2014-2015、番外編2015‐2019)

長編(原稿用紙2200枚程度)。日本の男子学生としての記憶を抱えたまま「東方Project」の世界で吸血鬼三姉妹の次女として生まれた主人公は、「原作知識」がありながら妹の凶行を止められなかった罪責感などから感情を封印してしまいます。姉の吸血鬼が主人公を負い目から解放しようと苦闘する過程と「原作」準拠の流れが物語の基調をなします。範例的なTS二次創作です。

10.宇宮祐樹『博麗霊夢は全てを知らない』(2014)

短編(原稿用紙95枚程度)。博麗霊夢を主人公として、日常の些細なきっかけから博麗神社の巫女であるはずの自身のアイデンティティについて悩み始めついにはカタストロフにいたるまで物語でサスペンス感が充満しています。幾つかの原作設定から〈邪推〉を導きだす型の作として範例的な作品です。

11.puc119『夢の続きは幻想郷で』(2015)

中編(原稿用紙240枚程度)。『東方紅魔郷』(2002)から『東方萃夢想』(2004)にかけての流れを踏襲し、不意に目覚めた主人公「浅葱」と幻想郷の住人たちとの交流を描く作品です。正体不明(本人にも)の主人公による緩い心内独白が話の基調で、結びの唐突さを含め、やわらかな不可解さが印象的です。

12.イベリ子『原作厨が原作キャラに憑依してしまう話』(2018‐2019)

短編(原稿用紙75枚程度、現在未完)。いわゆる「二次創作」の中でも、特に「現実」の人物が「原作」キャラクターに「憑依」して操作する(ことで原作と異なる展開になる)型の作品を忌避する「原作厨」が、「原作」で台詞もない小悪魔に「憑依」してしまうという、凝った趣向の「勘違い」ものです。

13.舞われ回れ『現代堕ちアリス』(2019)

中編(原稿用紙100枚程度、未完)。気が付くと「東方Project」のキャラクターであるアリス・マーガトロイドになっていた主人公がなぜか「東方Project」のない「現実」世界で動画配信を始めます。「憑依」「転生」「TS」に加えハーメルンで流行った「配信」もののお約束も踏まえて捻った野心作です。

14.柚子餅『アラサー女子による巫女生活』(2013‐2015)

長編(原稿用紙520枚程度、未完)。気が付くと「東方Project」のキャラクターである博麗霊夢になっていた主人公(「28歳独身」)が霊夢の代わりをしなければならなくなる物語です。同作者による「真・恋姫☨無双」の二次創作、『影武者華琳様』と同様の、代役というテーマへの意識を感じる作です。

15.のり弁765kcal『球磨川禊になった【彼】のお話』(2015)

短編(原稿用紙95枚程度)。転生時に西尾維新(原作)と暁月あきら(作画)の漫画『めだかボックス』(2009‐2013)の登場人物(球磨川禊)の異能を欲した主人公(【彼】)が、ほとんど球磨川そのものと化してしまった上で「東方Project」の登場人物である東風谷早苗などと出会い心を歪めさせてしまう物語です。

16.生崎鈍『月軍死すべし』(2018‐2019)

長編(原稿用紙1400枚程度)。『竹取物語』を背景にした「東方Project」の諸設定をさらに膨らませた作品で、かつて蓬莱山輝夜(かぐや姫)を護ろうとした近衛兵の子孫たちが一族秘伝の業を背負って幻想郷に集結し大騒動が勃発します。熱い戦い、重い因縁、熱くて重い情と生き様が謳いあげられます。

17.頃宮ころり『厨二病おねえちゃんず』(2016)

短編(原稿用紙15枚程度)。「東方Project」で「原作」設定のゆえに危険人物とみなされがちな吸血鬼の妹や覚の妹のが、実はそれぞれの姉の手によってあらぬ風評を得ていただけだとしたらという〈邪推〉をうまく短編にしています。続きが想定されていたようですがひとまず場面は区切られています。

18.へか帝『地底の仏師』(2019‐2020)

中編(原稿用紙190枚程度、未完)。独特のハードな作風で知られる「フロムゲー」の『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(2019)に登場する敵キャラ怨嗟の鬼が敗北後に気がつくと辿り着いていた(「東方Project」の)地下世界で現地の住人と交流する作品です。作者の怨嗟の鬼への思い入れが伝わってきます。

19.ほよ『東方片道切符 遭難登山者ラスボス撃破チャート』(2019‐2020)

長編(原稿用紙390枚程度、未完)。ハーメルンで流行している、当該「原作」のゲーム(実際には存在しない)で行ったRTA(リアルタイムアタック、最速での攻略)の解説動画の語り手、という体裁で小説の語り手を造形する「RTA」ものの一作です。メタ視点と作中視点の絡み合いが「勘違い」もの的です。

20.あとらっく『瞼が閉じたままじゃ涙も流れない』(2016)

短編(原稿用紙10枚程度)。寺子屋の帰り道で妖怪に捕らえられた主人公が絵を描く才を活かして小屋に監禁されながら日々を生き延びて、さいごに妖怪の「本当の顔」を見る物語です。「古明地こいし」の設定を活かしつつ、取り返しのつかなさや日々が培った情の重みを読み手に想像させる佳作です。

おわりに

前回はおおむね投稿サイト「東方創想話」で閲覧可能な作品を挙げましたが今回は投稿サイト「ハーメルン」で閲覧可能な作品に限定してみました。元から高評価の作品感想が多いので、スコッパー(投稿され流通するweb小説を渉猟し、よい小説をいわばディグる読者を指すスラング)とは名乗れませんが皆様と作品とのよい出会いに、本記事が役立っていたならばさいわいです。

また感想をまとめていく中で、作品が投稿され流通する場への関心が高まりました。ネット小説内では流行り廃りの蓄積から入り組んだ設定をお約束として含んだ物語が生成されており(例えば上記で12や13、また19として挙げた作品など)、そのダイナミズムは魅力的に映ります。またいずれにせよ新たなタグやジャンル、派生のn次創作が生じる余地が、その投稿され流通する環境の中に、常に準備されているようにも映ります。こうしたお約束や場を利用した物語制作のあり方について作品内容の感想に絡めつつ書くことができるようになれたならば、と改めて思いました。

ちなみに近年の東方創想話に関しては、noteなどを使い感想ネットワーク上のハブを担われている(実作者の)方々がおり、盛り上がりが感じられます。

上記記事(内で紹介された感想記事)を経由して以下の作品に出会えたことは私にとってほんとうにしあわせなことでした(皆様に御礼申し上げます)。

この作品に関しても、いずれ感想が書ければと思います。

(了)

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