つぶやきメモ1:批評の座標の感想(ジェンダー平等への意識を感じた)

人文書院という出版社が、2023年4月から「批評の座標」というタイトルで日本の批評家を取り上げる連載をしている。各回ごとに一名ずつ、取り上げられる批評家も、その書き手も異なる。いわゆる通史やワードマップというより論集って感じだ。英語だったらA Companion to...…って始まる感じの、ガイドブックや手引書に近いイメージになっている。あと「じんぶんのしんじん」という企画内の連載シリーズという位置づけで、だからラップ音楽でいうフックアップに近い性格の連載でもある。よく曲のタイトルで、ft. って書いてってアーティストがずらっと並んでたりするのがあるが、イメージとしてはそんな感じだ。それで、この連載の感想を何回か書いた。

なお2023年9月15日現在、自分の記憶が正しければ、人文書院に対して私はいかなる契約関係も結んではいない。なので、ステルスマーケティングではないと思う。ただ、このシリーズに執筆する以前から名前を知っていて、何なら文筆活動を応援したいと思ってきた書き手がいるし、あと人文書院の本でいくつか好きなものがあるので、白状すると、あんまりディスる気にならないのは確かである。個別にであれ大枠にであれ、いろいろ批判的なことも言えなくはない、とは思うのだが、少なくとも、今の自分のやるべきことではないような気がしている。あと、個人的に触れておきたいのが次の点だ。

読み書きの分野でのジェンダー平等実現って大事だよね、っていうのに特に反論は来ないと思う。自分はちょっと正直、現状では反論を思いつくことができない。どっちかというと、もっと方々で試みられる方がいい気がしている。ぶっちゃけていうと早くギャップが解消されて欲しい。とりあえずある分野でのバランスがよくなれば、他の分野のバランスの話にも移ることができる。例えば学歴、あるいは年齢、職業、宗教、等々。批評っていうのは誰がやってもいいのだ、っていう話になっているなら、ホントに色々なバランスが改善された方がいい。加藤典洋『僕が批評家になったわけ 』(岩波現代文庫、2020年)をこの前に読みながら、なんかそんな気持ちになっていた。

あとは色々と紹介してみる。まず人文書院の本で好きなものみっつ。

人文書院の「ブックガイドシリーズ 基本の30冊」はお世話になってきた。これからもお世話になるだろうと思っている。例えばバーナド・ウィリアムズ『生き方について哲学は何が言えるか』とかフィリッパ・フット『人間にとって善とは何か』とかそういうの期待して読むとNot for me(私向けじゃない)って気分になるかもしれないのだが、大陸哲学とか現代思想とか真剣にやってるひとに2010年頃の世界がどう見えていて、何が問題だと思われていたのか、みたいなのがわかるし、色々と考えたくなるガイドだと思う。

最近になって激推しされて読んだ。すっごい面白かった。一番記憶に残っているのは検閲されたせいで本文に読めない部分が残っている小説を、まさにその検閲こそが、物語世界内の主人公が放り込まれている理不尽な状況と、重なっているのだ、って論じるところ。こういうのを見ると、文学研究って面白いんだなって気持ちに自分はなる。「第3章 マイナー・ライター」、「第6章 コロニアル・キッチュを演じる」、「第7章 トランスコロニアルな座談会を盗み聞きする」など見て、ピンとくるひとには特におすすめ。

2021年に人文書院から出版された『インターセクショナリティ』という本の内容説明でちょっとびっくりしたことがあった。「インターセクショナリティとは、人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティ、ネイション、アビリティ/ディサビリティ、エスニシティ、年齢などさまざまな要素の交差する権力関係と社会的立場の複雑性を捉える概念である」。……え、「宗教」って「など」に含まれるんだ、そこに突っ込んでいいんだと驚いたのだった。
もちろん属性は無際限にありうるし無際限に数え挙げられうるのであれば実際上のスペースは有限なんだから何か以降を省略して「など」に圧縮しなければならないのは確かだ。
それに「など」に突っ込んだからといって優先順位が低いと認識している、ってこともないのだろう。そもそも、もしかすると「宗教」というのも「エスニシティ」に近しいので、みたいな言い方も可能かもしれない。イスラエルの研究者による自国の多文化主義に関する著作を読んだときドゥルーズ派はムスリムと別の「エスニシティ」集団だってことになっていた気がするしそういうものかもしれない。ただ、2022年7月8日以降にこの本が出版されていたら内容説明の文言はこうはならなかっただろうな、って思いは、正直、拭えない。
別の本の話に字数をたくさん費やしてしまったがこれは2004年に出版された本で、ポストコロニアル・フェミニズムの観点を踏まえつつ、仏教を信じながら生きる様々な境遇の女性の経験を記述している論集である。と言っていいと思う。例えば小泉義之『災厄と性愛― 小泉義之政治論集成 I』に所収の「性差別についての考え方」などと合わせて読むと、1990年代後半からゼロ年代前半ってこんな感じの話がなされていたんだな、って雰囲気がつかめるし、いいと思う。

最後に、自己宣伝で動画をみっつ。人文書院から出た本を読んだら面白かったので、YouTubeチャンネルで紹介している。めちゃくちゃ長時間やっているから暇なときにでも、どうぞ。

トリスタン・ガルシア『激しい生』についての紹介。合わせて今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』の紹介も行っている。そっちの紹介者は米原さん。

ボリス・グロイス『ケアの哲学』の紹介。グロイスの現代アート論『流れの中で』も面白かった。私が人文書院のことをディスる気になれないのは、こういう面白いと思う本が最近ここからいっぱい出ているので、なんか印象がどうしてもよくなってしまう、というのがある。

みっつめは人文書院の本ではない。けれど、さっき言及した、加藤典洋の本を紹介した配信。これ以外に、いまふたつ、しっかり読みたい加藤本があって、それは『人類が永遠に続くのではないとしたら』と『戦後入門』。

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