浅木原忍さんの「21世紀ラノベミステリ年表(暫定)」に寄せて

 大変な御労作をみました。志ある方がいらっしゃりすごいうれしいです。
 情報募集中とあったのと、それにかこつけて思い出話をしてみたくなったので、記憶から列挙します。
 マップ整備に役立てばと思い、グルーピングしつつ書きます。
 自分のミステリを判定する感性に自信がないので、明らかにミステリを逸するものをご紹介していたらお許しください。
 また、ご確認済みのものとかぶっておりましたら、あわせてご寛恕ください。
 なお、今日的基準では青少年向けとはいいがたいと判断されるであろう描写、当時の社会ではフィクション上の描写としては(かろうじて?)是認されていたかなり問題含みの言動などが作中に含まれる場合があります。
 すべてが手元にある作品というわけではないので、どれがどうまずいか、などは明示しがたいのですが、この点ご理解いただけましたら幸いです。


*ガガガ「跳訳」もの

2007年5月 原田宇陀児『新興宗教オモイデ教外伝(1)』ガガガ(続刊有)
2007年6月 ゆずはらとしゆき『十八時の音楽浴―漆黒のアネット』ガガガ
2007年7月 佐藤大『脳Rギュル ふかふかヘッドと少女ギゴク』ガガガ

それぞれ大槻ケンヂ、海野十三、夢野久作が元ネタ。ガガガ文庫創刊時は、当時の電撃文庫のラノベに移植されていなかった毛色の変格探偵小説系やサイコホラー系を意識したしたものが色々あった記憶です。初音ミクのKEIさんがイラスト書いてた沖永融明『イキガミステイエス』(富士ミス)が富士見ヤングミステリー大賞受賞作で同文庫から出版された最終作だったんですけどこれが2005年受賞の2008年出版とかで、一個人の肌感覚としてはミステリ文庫の存在感が薄れてたんでそこに新しい活路切り開く感じで「跳訳」試みてたのかなと思います。あとガガガの美少女ゲームノベライズ系のやつもミステリやミステリSF仕立てのやつ多かった印象でした。

*初期ガガガのミステリ(っぽいもの)

2007年5月―2009年7月 神崎紫電『マージナル』シリーズ ガガガ
 さっき述べたサイコホラー系のやつです。他には『ブラック・ブレット』等の著者です。
2007年5月 山川進『学園カゲキ!』 ガガガ(続刊有)
 以下の設定がスパイ小説的だと認定されるならばミステリです:舞台はTVドラマの役者などを志望する学生が集められた実験的な巨大学園で、学生生活自体がリアリティ・ショウとして中継されています。ということは当然、青春模様のヤラセがおきてもおかしくないわけですが、この辺が物語の核になります。
2007年5月 中村九郎『樹海人魚』 ガガガ(続刊有)
 仮に奈須きのこ『空の境界』みたいな伝奇バトルをミステリに含んでいいならばミステリだと思います。ファウスト系でも尖ってるかなりすごい文体で、伝奇バトル恋愛ものを書いていらっしゃった著者の方として記憶しています。それぞれ講談社BOXと文芸書ですが、例えば鏡征爾『白の断章』、今村友紀『クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰』などに近い文への凝った意識を感じる、というのが個人的な印象です。

*HJ文庫のエクストリームなもの

2015年10月 ちゅーばちばちこ『金属バットの女』HJ
 たぶん、少なくとも、一時期、HJ文庫の編集部にすごい気合入ったひとがいたのではないかと個人的に疑っていました(ほかのひともそういう噂話をしていた気がします)。これはおそらく米倉あきら『ぶるハメ』と同じ方が担当だったのでは、とか思っていました。中村九郎からさらに設定の説明を引き算したみたいな状態になってる異能バトルものと言えると思います。
2013年4月 松岡万作『もえぶたにつぐ~DRAMATIC REVENGE STORY~』HJ
 パッと見ラブコメに映ると思うんですけど、そしてそれは間違いではないんですけど、あらすじを読んだうえで読みはじめると、主人公の世界の認識の仕方が何かズレてないかこれってなったりして、妙な気分になってくるのと、あとがきが凝っていたような記憶があります。
2011年7月 かじいたかし『僕の妹は漢字が読める』HJ(続刊有)
 改変された歴史をどうにかしなければ、ってなるという意味でSFミステリだって言っていいと思います。当時ネットで公開されてた試し読みページを見たいろんな方が絶句していました。

*特殊能力がミステリっぽい仕掛けと組み合わさっているもの

2016年1月 おかゆまさき『マルクスちゃん入門』ダッシュエックス文庫
 ラブコメもので、突然現れたヒロインキャラとドタバタコメディするんだけど、話の締めをひっぱっていた謎というか、なんでいきなりここ来たの的なお約束で流してたことのタネ明かしをする、ってパターンがあると思うんですけど、それ系です。このネタはこうばらししても大丈夫かなと思い、書きました。基本は『撲殺天使ドクロちゃん』作者の下ネタコメディです。
2012年8月 木戸実験『かまいたちの娘は毒舌がキレキレです 反ラノベ狂騒曲』スマッシュ文庫
 タイトルや表紙からして野心がほとばしる感じに映ると思うのですが、それはそれとして捻ってもある不思議な読み心地でした。
2011年2月 一橋鶫 『魔術師たちの言想遊戯』ファミ通文庫(続刊有)
 言葉に関する異能力の使い方が映えてて面白い現代学園異能バトルだった記憶があります。禁書目録系のやつの能力が凝っているタイプのやつ、みたいなまとめ方も可能かもしれません。

*青春ダークものないしダーク恋愛もの

2017年7月 吉田珠姫『堕ちた天使は死ななければならない』シャレード
 パンプキンノベルズの『左巻キ式ラストリゾート』が元リストに入っていたので、BLレーベルではありますがこちらも入れていいかと思いあげました。事件の謎を追う中で警察と関係者の仲が接近していきます。
2010年3月―2011年3月 比嘉智康『神明解ろーどぐらす』シリーズ MF
 たのしい日常もので、少しずつ恋愛が進んでいくんですが、途中からおかしくなります。ミステリというか微妙ですが、サスペンスではあります。
2008年10月 相生生音『泣空ヒツギの死者蘇生学』電撃
 主人公が一度、殺されてから復活して始まるんで、ミステリっていうか、ノワールラブコメ? みたいな感じです。作者は『魔界探偵冥王星O』シリーズにも参加していたと思います。

以上、15冊ほど挙げてみました。もし面白いものが見つかったり、お役立ちできていれば幸いです。



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