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フィンセント・ゴッホの自殺にまつわる出来事に新解釈を施した小説『リボルバー』(原田マハ 著)

死後、世界的に人気を博すようになった天才画家フィンセント・ゴッホ。ピストル自殺によって亡くなったといわれているが、実際に何が起こったのかはいまだによくわかっていない。そこに焦点を当てて書かれたのが本書である。

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ゴッホが自分に向けて拳銃を発射し、それがもとで亡くなったというのが定説である。しかし、その場にいたものはおらず、ゴッホの臨終に付き添った弟のテオが妻のヨーに書き送った手紙には「ゴッホが自殺を図った」とはひと言も書かれていないという。

ゴッホが亡くなった半年後にテオも亡くなり、その真相を知るものはだれもいない。もしかすると、拳銃を発射したのは他の人間だったかも知れない。そこから着想を得て、ゴッホを撃ったのはゴーギャンだったかも知れないという新説を、著者は小説の形にして提起している。

ゴッホとゴーギャンといえば、アルルでの共同生活がわずか2カ月で破綻したことで広く知られている。有名なゴッホの耳切事件はゴーギャンから別れを告げられたゴーギャンが錯乱して起こしたといわれている。

ゴッホとゴーギャンは仲違いしたとはいえ、芸術家としてお互いを認め合う深いつながりがあったのではないないか。そう著者は考えている。共同生活を解消したあとも、ゴッホはゴーギャンを恋い慕い、ゴーギャンもまたゴッホを遠ざけつつも意識せざるを得ないライバル関係にあったのかも知れない。

タイトルの「リボルバー」とは拳銃のことである。それが主人公である日本人の冴が務めるフランスのオークションハウスに持ち込まれる。そこから物語は始まる。

「果たして、そのリボルバーがゴッホの命を奪った拳銃だったのか?」

その謎を解くために、冴はゴッホの足跡を巡る旅に出る。そして、ゴッホ終焉の地、オーヴェール=シュル=オワーズにも足を運ぶ。ゴッホが過ごした下宿屋の食堂ラヴー亭や麦畑を見て回るのだ。

著者の原田マハはキュレーターとして活躍した後、小説家となった人である。彼女の画家を巡る物語は、史実と想像がないまぜになり、「本当にそうだったのかもしれない」と読者に思わせる魅力がある。

彼女の本を読んでから、改めて画家の作品を鑑賞すると、その背景にある画家の思いにまで想像が及ぶ。彼女のおかげで、絵画への興味はさらに増したといっていいだろう。次回作が待ち遠しい作家である。

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