中国で会食の意味するもの

「関係」についてさらに掘り下げてみたい。


 我々の身近にある玉子を例にすると、黄身が宗親会や秘密結社にあたる。その周りにある白身が一般の「関係のある部分」である。白身のまた外には硬い殻があり外の世界と中の世界を区別している。

 中国の社会では所謂「ソトモノ」と「身内」ではその扱いは全く違う。身内がソトモノに本音を漏らすことはまず皆無である。TVでよく北京の街角の声ですとインタビューが流れるが、あれを真に受けて北京市民の偽らざる声だと思ってはいけない。言論の自由や言論統制などと言う前に中国人にはソトモノに対する警戒心があるので本音を漏らすことはまずないと考えるべきである。


 日本人は当たり前だがソトモノである。「身内の中国人」から本音を聞ける間柄になるには硬い殻を割って中に入らねばならない。せめて白身の世界に入らねばならない。そのためにお決まりの会食を行うのが一般的な方法である。


 日本の会食も一定の重要性を持つが、中国の会食はその重要度は比較にならないほど大きい。会食を重ねながら相手の教養・背景・嗜好・性癖などを細かくチェックし、「付き合うべき人間かどうか」の判断材料を蓄積する。会食なしで大きな取引がまとまることはないし、会食の失敗で取引がなくなることは日常茶飯のことだ。中国の駐在員の中で有能だと言われるビジネスマンは例外なくその街のレストランに詳しい。必要に駆られて飲食にこだわるようになるからである。


 中国人同士も頻繁に会食している。「身内ではない中国人」には上記のようなチェックを重ねるが、意味は上記の日本人相手と同様。身内同士ならお互いの情報交換や食い違い部分の修正を目的とする。そのようにしながら付き合いを深めたり距離を置いたりしてゆく。付き合いを深めることが出来たら殻の中に入ることが出来るし、距離を遠ざけられたら付き合いを終えることになる。


 実は中国の歴史ではその時々の政府はこういう「関係」の利用や処理に追われていた。宗親会、秘密結社、宗教団体などの濃い黄身の関係から、地縁や利益で結合した白身の関係まで、ありとあらゆる関係に目を光らせて来た。その結果、特務警察が各時代に設けられ、例えば明の時代には錦衣衛や東廠・西廠といった悪名高い組織があった。

 今はIT化で到る処にカメラで監視しているが、監視カメラが少なかった時代でも北京の有名なレストランの前には駐車場の車(特にナンバー)を中心に撮影するカメラマンを配置し、出入りの公務員などを監視していた。多くの公務員は公用車のアウデイを途中で乗り捨てて、着替えの後、安心できる車に乗り、数百m前で降りて徒歩で向かっていた。


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