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day29後編 落ち着かない午後 (帝国ホテルライフ)

帝国ホテルって、喫煙所1か所なのかあ。
意外な気もするけど、今どきは普通なんだろうなあ。

遊びに来た両親と、1階のロビーラウンジでお茶をしていたのだけど、
煙草を吸いたい父にくっついて、家族3人で本館のエレベータに乗る。
よく考えたら、あたし本館に全然お世話にならなかったなあ。
なんだかもったいない。
4階の茶室に行ったくらいで、いま喫煙所の話が出なかったらまったく行かないまま終わるところだった気がするので、こんな機会があってよかった。

エレベータを17階で下りて、またまた来てよかった、と思った。
眺めがいいし、レストランがいくつかあって開けた雰囲気だ。
父が1本吸う間にゆっくり見て回ろう。

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天気はあいにくだけど、自分の部屋とは違う角度に窓がひらけていて新鮮だ。

おお、インペリアルバイキングってここにあったのかあ!
雑誌で読んだんだよなあ。日本で最初にバイキングという食事形式を始めたのは、この帝国ホテルなんだよ。

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おお、そうそう、このロゴ。本で見たままだ。へえ、この最初のロゴを今でも使ってるんだあ!
帝国ホテルの料理スタッフが、アメリカかどっかで、個人が自由に自分の分を取り分ける方式を見て、ぜひ日本でもこれをやろうと持ち帰って、名前どうしようかって社内公募して、当時流行ってた映画で海賊たちが豪快に食べる姿がイメージに合うなってことで その海賊映画の名前から、「バイキング」ってつけられたのが日本中に浸透した、というような話だったと記憶している。

それとは別に、看板にもなっている村上シェフは有名らしい。喫煙所から出てきた父が村上シェフのご高名を知っていた。

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レシピノートなんかも展示されているのを、興味深く見せてもらったところで、エレベータを下りてあたしの部屋に案内する。

17階よりも高い部屋からの眺めは、2人とも気に入ったようだった。
窓から見える駅、銀座や有楽町方面のビルや通りの名前をあたしに説明しながらわいわいと話しているのをみて、連れてこれてよかったなあ、と思っていた。
父「めんどくせえ行かねえ」母「行きたい気持ちはあるけど…まあいいや」と言ってたけど、来てよかったじゃんねえ。
しばらくゆっくりとしていたけど、1時間くらいしたら父が少しそわそわしてるので「飽きたの?」と訊くと、「飽きた!」と言うので、この会はここでお開きにする。

今日の大目的は、荷物を家まで持って行ってもらうことだ。
昨日までに詰めておいたトランクケースを絨毯の抵抗で父が少し重そうに転がしながら、3人で車に向かった。
住人は、1台だけ車を登録できて、その1台だけは駐車代を取られない。
家の車を登録しておいたので、駐車代は気にせずに駐車場まで向かった。あたしは駐車場には行ったことがなかったので、どういう風になってるかもいまいち分かってなかったから、このタイミングで行けることを期待してたので計画通りだ。へえ、螺旋状になってたのかあ。こういうことろは普通だなあ。

帰り際に、かなり大きな梨を2つ持たせてくれた。
いやあ、梨すごい好きだけどさあ、なんなら果物で一番好きなのはたぶん梨だけど、あたし明後日にはここ出るんだよねえ。
こんな大きいのもらっても…まあいいけど…。なんとかなるか。
車でまた1本吸ってから帰る、という両親に別れを告げて、出発を見送らずに駐車場を出たところでまたLINE。現在4時40分。

『階段おりたところのベンチに座ってます』
休む間もなく、3組目の到着だった。
ひー、今日はほんと糊しろがないわあ!

急いでエントランスに戻って、高校時代の友人と合流。
彼女は、ホテル暮らしのお知らせをした際「絶対行く!」と真っ先に言った1人だ。最終日まで間もないけど、タイミング合う日があってよかったなあ。
今日は夜ごはんの約束をしてたけど、その前に部屋が見たいという事で、お部屋までご案内した。

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先輩のタムさんから頂いたお茶が各所で役立つ。それと、昨日キコさんから頂いた差し入れの豆菓子をおつまみにして、久しぶりに会った友人と、優雅にお茶タイムだ。

宝塚好きの彼女は、さっきこの部屋のある階でエレベータを降りた時に、エレベータホールから見下ろせる宝塚劇場に喜んでいて、「ここから宝塚劇場の入り口が見えると言ったら、もっとここのお客さんが増えるよ! 宝塚好きなら行くもん!! わたしなら毎日ここから見るよ。ブログに書きなよ!」と興奮していた。

そうか、そういう需要もあるのか…。
この友人には何度か宝塚の舞台を観に連れて行ってもらったことがあるんだけど、初めて行くときに「スノーフを連れて行ったら、”宝塚好きで宝塚音楽学校の受験したけど落ちて、それでも宝塚好きで観に来てる人”だと思われると思う」と言われたのが忘れられない。
受けてもないのに”落ちた人”に思われるってどんなよ…、と微妙な気持ちで思ってたけど、行ったらなんだか納得した。
いろんなお客さんはいるんだけど、それでも多くはなんとなくみんなふわふわした雰囲気や服装の人が多くて、言われてみればあたしが浮いている感じがなくもない。

まあそれはいいとして、ここに来る前に日比谷シャンテにある宝塚グッズのお店(キャトル?っていうの?)に行ってたんだと言って、戦利品を見せてくれた。

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CITY HUNTERは好きだよー! よく見てました。数年前にやった劇場版アニメも行ったし、フランス人が作った映画も見に行ったよ!

その後も、お互いの近況や、外のお店ではできないような話もしたりして、いい時間になってきたところで夜ご飯の場所探しに外へ出ることにした。

この友人に宝塚に連れてきてもらったときは、たいてい彼女の好きな日比谷シャンテ地下にある、チャヤマクロビのお店に行くことが多い。今回もそのつもりだったらしいのだけど、気温もちょっと涼しくて、温かいものがあるお店がいいね、ということで、日比谷シャンテの地下レストラン階を全部見て回った結果、中華のお店に入ることにした。

日比谷シャンテ 地下2階
「中国家郷菜 梅梅(めいめい)」

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よく考えると、この友人と夜のご飯を一緒に食べるのは、もう憶えてないほど久しぶりかもしれないなあ。いつもランチだからねえ。

注文は友人が野菜タンメン、あたしが定食セットを頼み、あとのはシェア。

・蒸し鶏の葱ダレ(748円)
・手打ち焼き餃子(638円)
・ピータン(528円)
・野菜タンメン(1078円)
・定食セット(330円)

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頼んだ時はちょっと足りないかな、と思ってたけど、なんだかお腹いっぱいになってしまった。
おかげさまで今日もテイクアウトせずに食事を終えることができたので、友人には感謝。よる7時過ぎには食べ終えて、この日は解散した。

なんとか、3組無事に迎え終えた…。
どうっと気が抜けて、徒歩1分のホテルに戻る。

部屋には夕方にもらった梨があって。ああさっき出そうかと思ったんだけど、すぐご飯に行く予定だったからやめたんだよな…。
中華でお腹いっぱいだから、やっぱり出さなくて正解だった。
明日の朝に半分食べるか…と思ったところで、はたと気づく。

あっ、果物ナイフ、トランクに入れて家に戻しちゃった…!

しまった…
朝にリンゴとか食べるから、実は家から小さな果物ナイフを持参してたんだけど、刃物持ち込むのとか、規約にはダメとか書いてなかったけど毎回部屋にお掃除入ってもらうときに見えるのもなんか嫌だと思って、使うとき以外はいつも金庫にしまっていたのだ。
で、親に持たせたトランクに、それしまっちゃったよね…。
梨……明日かじるか…?
半分だけかじって…翌日 歯形のついた残りを食べる…皮ごと…イヤイヤ無理だ。

ホテルにお願いしたら貸してくれるだろうか…。刃物なんて貸してくれるのかね? 仕方ない、どちらにしろ可能性はそこしかない。

部屋の電話機に向かい、「サービスアテンダント」と「食事・飲物」のどちらのボタンを押すべきか迷う。
ナイフは多分「食事・飲物」にいる人のところにあるけど、貸出の許可とか? そういうのはその人たちでは出せないとかあんのか?

うーん…悩んだ末に「サービスアテンダント」にかけてみることにした。

「はい、スノーフ様」

電話の向こうの女性に、果物ナイフを借りれないかと訊きながら、今日、梨を他から頂いてしまって、とわざわざ説明した。

本当ならこんな説明はいらないし、親にもらったものは別に「頂いた」という表現も必要ない。
けど、ナイフを一人部屋の女性に貸し出したら、自殺でもされんじゃないの、って、向こうが思う可能性はどれくらいあるのかしらとムダに心配してしまって。
いや、深く考えれば、本気で部屋で自殺する気ならナイフは持参するだろうから、こんな風にホテルに借りれないかお願いしたりしないよ。あたしはそこまで思い至るけど、電話口のスタッフがそこまで考えるかは分からない。

で、あえてここは具体的に、梨がある説明=自殺の可能性を排除と、
” 頂いた ”=不可抗力感の演出 に出た訳だ。

「…確認いたします」

さあ、これでどう出る。
そわそわと、一応母に報告メールをすると、すぐに返信が来た。
『ホテルの人に借りられないの?』
いまそれ確認してもらってるところ。
『ダメだったら、カミソリで皮むけばいいんじゃない』
カミソリ! 衝撃の提案だなあ。それならアメニティのが部屋にあるけど…そうかまあいけなくはないか?

そうこうしていると、部屋のチャイムが鳴った。
ドアスコープを覗くと、ホテルの制服を着ている人だったので、二重ロックを外して扉を開ける。

「スノーフ様こちらをお持ちしました。どちらがよろしいですか?」

その手には白いナプキンに包まれた2本のナイフ。
1本は文化包丁を小さくしたような形のいわゆる果物ナイフ、もう1本は刃先が細く切れ上がったペティナイフ。

あ、電話で言ってた「確認します」ってのは、折り返しの電話が来ることじゃなくて、貸せる時は直接こっちに来る感じなのね…。

しかも、借りられれば何でもよいです、の心境だったのに、選べる2タイプなのね…。

いろいろと複雑な感想を抱きつつ、ありがたく果物ナイフの方をお借りすることにし、チェックアウトする明後日までこのまま貸してほしい、とお願いして扉を閉めた。

ひとまず無事に借りられました。

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はあ、安心してこのあとお風呂に入れそうです。
わーい、明日の朝 半分食べようっと。