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こんにちわ、ケーサツ

家のチャイムが鳴った。
チャイムが鳴るのは、とても珍しい。

「はい」と出ると
「北警察署から参りました」とのこと。
家族構成などを確認するため、
年に1度くらいやってくる。

「モモちゃん、たいへんや、警察やで」
私は振り返ってモモちゃんに言った。
モモちゃんは目を丸くした。

「夜中に大きな声で叫んだら、逮捕やで」
私はいつもどおりモモちゃんに言った。

最近、
夜中に叫ぶことは少なくなったけれど、
騒がしいことは多々ある。
本物の警察官がうちに来たとなると、
モモちゃんも少しは
緊張して過ごすだろう。

モモちゃんはワクワク顔になり、
「ご挨拶します」と言った。
宅配のスタッフさんが来たときも
「こんにちわ」と言いにくることがある。
警察官にも、
「こんにちわ」が言いたいのだろう。

警察官を玄関に招き入れると、
モモちゃんはダイニングルームから顔を出し、
大きな声で、
「こんにちわ、ケーサツ!」と言った。

ケーサツ。
呼び捨て??
いや、呼び捨てじゃないかもだけど、
ご本人に向かって「ケーサツ」っちゅうのは、
なんかこう、
ケンカ売ってる感じしませんか。

「モモちゃん、あー、
警察のかた、ね」と、
私は大慌てで声をかけたけれど、
わけがわからない。
市民が「警察のかた」なんて言うのか。
「こんにちわ、警察のかた」?
「こんにちわ、ケーサツカンさん」?
どれも、なんかヘン。

若い警察官さんはニコニコと、
古い古い台帳を開いた。
「えっと、この方は…」
指さしたのは、
家族くんのご両親の名前だった。
とっくに亡くなっている。

警察官さん「あ、そうですか。えっと、この方は…」
私「私です」
警察官さん「あ、で、この方が長男さんですね」
私「長男て、この、亡くなった両親の長男ですよ?
私の長男じゃないです、私の夫です」
警察官さん「そうですか…緊急連絡先は、こちらの家で大丈夫ですか」
私「こ、この家の方は、みなさん、とっくに亡くなっています」

ホラーか。

警察官さんは最後に
「警察官を名乗る詐欺が流行ってまして!」と言った。
私はかつての母のマネをして
「あら、あなたも怪しいですよね」と返した。

警察官さんは、そういう展開に慣れているらしく、
「そうですね」と、にこやかに言った。
「ちょっとでも不審に感じたら、
北警察署に電話をかけて、鈴木、
ぼくの名前なんですけど、鈴木っていますか、
そう尋ねて確認してください。
もしいない場合は、詐欺です」

そういう場合、
一般のビジネスであれば、
北警察署の電話番号を渡していきますよ。
そして、
一般のビジネスであれば、
名乗るのはフルネームが鉄則です。

…とは言わなかった。

古い古い、間違いだらけの台帳。
「おかしいなあ、去年もお訪ねしたことになっているけど…」
と、ふにゃふにゃ言い訳をする警察官さん。

詐欺はもっともっと、
しっかりしとるかもしれないですなあ…

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