科学社会論と公共哲学の交錯

来年の卒研メモです。この範囲を大幅に変えることになりました。メモとして置いておきます。
ステップ1:科学社会論の探求
 マートンの『社会理論と社会構造』第四部科学の社会学を読み進めていきたい。
 マートンによれば、科学という営みは、確証された知識の増大という目標を達成するのに相応しい独自のエートス(倫理観)に支えられている。科学者は集団としても個人としても「科学者を拘束すると考えられている価値と規範の複合体」としての「科学のエートス」を共有している。科学のエートスは、科学活動やその成果に対する「公有制」(Communism)、「普遍主義」(Universalism)、「利害の超越」(Disinterestedness)、「系統的懐疑」(Organized Skeptism)といったいくつかのノルム(規範)を課すことによって科学者集団を律している。
 「公有制」とは得られた知識を独占せず共有しようとする態度、「普遍主義」とは人種や性別にかかわらず見出された知識を尊重する態度、「利害の超越」は個人の利益のためではなく公共のために知識生産を行う態度、「系統的懐疑」は「"事実が手中におかれる"までは判断を差し控え、信念を経験的、論理的基準に照らして客観的に吟味しようとする」態度である。これらはそれぞれの頭文字をとってCUDOSと呼ばれる。その際、「独創性」(Originality)を含めることもある。またCommunismには、今日ではCommunalismの語を当てることも多い。
 この科学者のエートス論は、ある社会集団が成立しているときにただ物理的に集合しているだけではなく、一定の価値の共有が見られるという社会学の基本的視角を科学者集団に適用したものである。
 この説には、異論、反論も寄せられてはいる。しかし、まずはマートンの思想を把握することから始め、有本章『マートン科学社会学の研究』(1987)や松本三和夫『科学社会学の理論』等で、理論的補強を行っていきたい。

ステップ2:公共圏に関する理解
ハーバーマスやアーレントの公共圏理論を理解する。
 ハーバーマスの『公共性の構造転換』(1962年)によれば公共圏とは「人々が共に関心を抱く事柄について意見を交換し、政治的意思を形成する言論の空間、とりわけ非国家的かつ非市場的な領域としての市民社会に自発的に形成される強制や排除のない言説の空間」である。
 公共空間概念のもう一つの起源は政治哲学者ハンナ・アーレントである。ハーバーマスも彼女の議論に大いに影響を受けているが、前者が公共空間における合意形成を重視するのに対し、後者は、互いに異なる観点や意見をもつ人々の「複数性」を重視する。アーレントにとっての公共空間は、互いに異なる人々が言葉と行為を通じて互いに見られ聞かれる「現れの空間」であり、特定の価値観の共有や合意ではなく、意見の多元性や対立に開かれた「アゴーン(闘技)の空間」である。民主主義モデルでいえば、ハーバーマスの公共空間論は「熟議民主主義」に、アーレントのそれは「闘技民主主義」に相当する。
 両者の著書、あるいは解説書によって、公共圏について把握する。

ステップ3:公共圏と科学社会論の交差
 これが研究の肝であるが、ステップ1および2を経ないと、どのように帰結すればよいかがわからない。卒研開始までに文献を咀嚼し、結論の見通しをつけるのが、目下の課題である。


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