養子

不妊治療で疲れ果てた私は途方に暮れた。いっそのことどなたか精子を分けていただけないものか?しかも私のような平凡で不細工ではない、素晴らしい遺伝子の精子を。若い頃、顕微鏡で見た精子は白濁の海を優雅に泳いでいたが、彼らは何処へ。着床失敗、二度目も失敗。なくなっていく気力とお金、私は一体何をしているのか、何処へ向かっているのか、などとセンチメンタルしている私をよそに、強靭な意思を持ち合わせる今日子は新たな道筋をわたしに提案したのであった。

養子という選択。私の責任でこうなってしまったとはいえ、既に混乱し疲弊した脳にこの提案を受け入れ咀嚼し未来を考える事など到底不可能であったが、私は反射的に、本能的に同意したのであった。何より今日子が嬉しそうに、絶望を越えた優しい笑顔で語る姿に、私は暗闇の中に小さな希望をみつけたような気持ちになり、それがなによりも嬉しかったのだ。





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