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雨が降ってる

デスクワークがきつくなって外に出たら霧雨が降っていた。

霧雨が好きだと思った。

誰もいない道をふと走ってみると冷たい雨が火照った顔をまろやかに包んで気持ちが良い。

雨の日に特有な土っぽい匂いはいつも懐かしい気分にさせた。小学校の宿泊行事で行った山梨の森でキノコを探した時の匂い。あの時の楽しかった思い出は今焦燥感に形を変えて走り出したい衝動を駆り立てた。

角を曲がって商店街に入るとまた新しい記憶が眼前に浮かび上がってきた。霧に包まれた広い草原に遠くに霞むレンガ造りの古い建物。覚えているはずもないくらい昔に住んでいたイギリスの静かな村だった。霧の向こうから何かがやって来るような気がする。胸を躍らせてそれを待っていた。

霧の草原は現実を歩く人にあっけなくかき消された。今、夜の商店街の中を歩いていた。

路地に曲がるとどこかの夕食の匂いが漂ってきた。楽しそうな家族の団らんを思い浮かべた。

家へ帰ろう。

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