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井に集い、豊かに暮らす

*この度の新型コロナウイルスの影響により、都心から人が減り、住居を構えるまちの公園やテイクアウトを提供する飲食店、生活必需品を扱う商店は、それを利用する人で混雑するという現象が起きています。本来フリーペーパー『井』は地元に住む人に向けてこの地域の魅力や暮らす楽しさを伝えるために始めた媒体ですが、この様な形でこのまちが賑わうようになるとは思ってもみませんでした。この騒動が終息を迎える頃、STAY HOMEで技術的に発展する分野があるのと同時に、籠るストレスの反動で、人と外で場を共有する喜びや、このまちの魅力を発見し、普段住む場が暮らす場としても見直されこのまちを愛する人が増えることも期待しています。

2009年より「井」のエリアに暮らす人の声を届けてきたフリーペーパー『井』。この機会にバックナンバーの記事を一部ご紹介します。プロフィールなどは執筆当時のままですのでご了承ください。

2018年秋発行 15号 『井』-集う-  より
「井に集い、豊かに暮らす」

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集う人:榎本(木村)奈緒子
グラフィックデザイナー。紙媒体やWEBなどのデザインを手がける。2歳の娘の母。イラストレーターの夫 榎本直哉とn/n(エヌエヌ)として活動。
http://enuenu.me/

緑茂る気持ち良い季節。氷川神社の入り口には「井のいち」と書かれた水色ののぼり旗が風にはためく。境内の中へ進むとセンスの良いお店が所狭しと賑わっていて、老若男女の楽しそうな笑い声に混じって心地よいジャズの音が聞こえてくる。実家から歩いてすぐの氷川神社でこんな風景が広がっているとは、昔はとても想像できなかった。

私が石神井に引っ越してきたのは2歳の時だった。幼少期は石神井公園がまるで自分の庭のような存在で、朝から日が暮れるまで駆け回って遊ぶ日々だった。しかし、思春期になると外の世界に興味が移っていき、段々と地元から遠ざかっていった。20代半ばには、憧れていた街に住んでみたいと石神井を離れた。当時は新しい場所でいろいろな経験をし、吸収してみたかったのだ。

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それから10年が経ち、石神井へまた戻ることになった。きっかけは2つある。1つは、結婚して子どもを授かったことだ。実家の近くの方が何かと良いだろうという理由もあるが、ふと自分が子どもの頃に泥んこになって遊んでいた公園の風景や匂い、思い出の数々がふわっと蘇り、自分の子どもも自然豊かな環境で育ててみたいと思ったからだ。

もう1つのきっかけは「井のいち」だ。初めて訪れた第1回目はあいにくの雨だったが、いままで石神井では感じたことのない空気感にとてもワクワクし、それから毎年楽しみに足を運ぶようになった。これまでも住んでいた地域のクラフト市などにも足を運んだが、「井のいち」は石神井の風土を生かしているからか、ゆったりとした空気が流れ、また「井」エリアを中心としたお店や企画ひとつひとつにもこだわりを感じた。

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それらの混ざり具合が他にはない独特な空気感を生み出しているように感じたし、またそれが自分にとってとても心地良かった。その後もフリーペーパー「井」やSNSなどを通じて様々なお店を知るようになり、自分が育った街にこうした文化や場ができてきたことも、とても嬉しかった。そして段々と、またこの地域で暮らしてみたいと思い始めた。

そうしたことから、4年ほど前から再び石神井で暮らし始めた。最近は、この地を愛して活動し続けている多種多様な人々や、私たち家族のように「井のいち」がきっかけで引っ越しをしてきた方とも出会う機会があった。昔住んでいた時にはわからなかったが、豊かな自然や文化の魅力に人々が集まってきている場所なのだと感じた。私も改めてこの地域のことを知り、いろいろな人と集い、そして繋がっていきたい。そうすることで、私たちの暮らしも、より豊かにしていくことができるのではないかと思う。


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