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手のひら

爺さまが、食事を飲み込めないと言う。
食道を下がっていかないと言って、トイレに駆け込んだ。
背中を擦る。

まただ。再発するものなのか。

お薬手帳を見ると、前回は昨年6月だった。
かかりつけ医から大きな病院に回された。
今回は、直接大きな病院に向かう。

自分の休日で良かった。

胃の入口近くの食道に、カンジダと言う黴が生えています。
と、胃カメラの後で、若い医師に飲み薬を処方されたのが前回。
あっという間に回復したので、今回も特に不安はなかった。

前回とは違う曜日に来たせいか、少し年上の医師が担当してくれた。

「………これが、前回の胃カメラ。こちらが今日のです」
彼は、さっくりと、
「前回は、誤診です」と言った。

え。……は?

「これね、お薬のコーティングが食道に貼り付いてますね。それが邪魔をしてます。少ないお水でお薬飲んでませんか?」
確かに、爺さまは夜中に何度もトイレに立つのを嫌がり、水分を取りたがらない。
錠剤が食道に閊え、ゆっくりと下りていく時になる症状らしい。
画面では、食道に細切りの湯葉のようなものがぐるりと貼り付いている。
さながら鯉のぼりの上にたなびく吹き流しを、内側から覗いているようだ。

前回の薬が効いたんじゃないの?と訊ねると、薬やその後の飲食で、コーティングが剥がれて回復したのだろうと言う。
炎症止めを念の為出すけど、飲まなくてもいい。とりあえず、薬は多めの水で飲むように、と帰された。

お言葉通り、すぐに回復した。

診察室の外に貼られた医師一覧、前回の担当医が一番下に居た。
新人だったんかい。


帰宅後すぐは、大人しく多めの水を飲んでいたが、1週間も経つと、薬を一度にまとめて口に放り込む。
一粒ずつ飲みなさい!と言うと、小さくぶつぶつ文句を垂れる。
あんなに苦しがったくせに!

まさに、喉元過ぎればなんとやらである。


後で「食道カンジダ 画像」で調べると、診察室で見たのとは違う。
素人目にも湯葉ではなく黴だねぇ、と感じてしまう画像がたくさん出てきた。


専門家を名乗る相手に断言されたらまず疑わないのは、当方だけではないだろう。
その人が新人かどうかはもちろん、ニセモノかどうかすら見極める、材料も自信もない。
当方も昨年の時点で、疑って画像検索しようなどとは微塵も考えなかった。

紅麹の件といい、昨今の食中毒といい、
「大丈夫!」と言われているものを疑う能力が、問われている。
これおかしくない?
なんか変じゃない?
自分の感じる違和感に従うことで、自己防衛をしなくてはならない。



推しは、たぶん一人暮らしなんじゃないかと思う。
具合の悪い時に頼る相手は近くに居るだろうか。
背中を擦ってくれる手が欲しい時、どうするのだろう。

小さくなった爺さまの背を擦った時に、
余計な心配を、してしまった。


☆ヘッダー写真、お借りしました。ありがとうございます。

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