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皿を増やす

いちま〜い、にま〜い、さんま〜い………

今日は、別に怪談ではない。



食器を割ると、祖父を思い出す。
父方の祖父である。



福井で生まれ、「土方の頭領」だったと言う。
ドカタ、が今は表現として微妙なラインだとも聞くが、彼は実際にそう呼ばれていた時代の人なのである。
全国を移動しながら工事を請け負っていた、というような話を聞いた。祖母は北海道の人だから、仕事で出会ったのかもしれない。

頭領というと、職人気質の無口な頑固者とか、俺に付いて来ぉぉぉい、的な親分をイメージしてしまう。
しかし当方の記憶にある祖父は、陽だまりの猫か、お地蔵様のような人だった。

むしろ祖母のほうが、山姥の親玉のような人だったが、その話はまた後日。



時折訪れた、祖父母の家。
祖父が座る炬燵の場所は、台所の壁に寄りかかる形となる。

誰かが流しで食器を割る音がすると、にやりとして彼は呟いたそうだ。

「皿が、増えたぞ」

責めも咎めもせず、しかし無かったことにもしない。

にやり。

これは未だに当家に受け継がれ、「増やしといたから」という応用編まで生まれた。



いつもニコニコと、茶碗を持って座っていた。
眩しい禿頭。まんま、お地蔵様なのだ。

元気な頃は、爆音を響かせながら軽トラで我が家までやってきた、祖父。
芋爺の軽トラは、町で有名だった。

祖父の、遅くに出来た末っ子の、さらに遅くに出来た子の当方は、彼の記憶があまり無い。

粋な頭領だった(かもしれない)若い頃も、見てみたかったと思うのである。


☆ヘッダー写真、お借りしました。ありがとうございます。

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