距離《小説》
久しぶりに、市内のショッピングモールに入った。
街中の書店やCDショップはどんどん閉店していくが、まさかモールの本屋まで撤退するとは思わなかった。
服に興味がない俺が、人混みにわざわざ足を運ぶ理由がなくなった。
彼女は、自分の服は一人で選ぶ。ここにも一人で来ているのかもしれない。
ここには誘われないまま、数ヶ月が経っていた。
推しのライブに着ていく服がない。
東京の季節に合わせたちょうどいいヤツ。
一緒に選んで欲しいと言うと、二つ返事で了承された。
彼女の的確なアドバイスもあり、良いデザインと金額の上着を見つけた。
買い物を済ませ、なんとなくウロウロする。
前に来た時にファストフードだった場所は和菓子屋に、旅行代理店は保険屋に変わっていた。
本屋とCDがあった場所には、たくさんのカプセルトイと、オマケ程度のUFOキャッチャーが並んでいる。
俺は右回りで、彼女は左回りで見て歩く。
気になるモノがあったか聞くと、黙って頭を振って、少し笑った。
一階に下りる。
マクドナルドは混んでいた。
フードコートに席を取ることにして、空いているサーティーワンを選ぶ。
俺はチョコレートミント。
彼女はラブポーションサーティーワン。
初めて一緒に来た日から、変わらないチョイス。
こんなに何年も一緒にいることになるとは思わなかった。
気の利かない俺は、半年もすれば、
呆れられて飽きられるだろうと思っていた。
どの店に入っても、バラバラに見て回り、入口に集合する。
「えー見てーかわいー」と寄り添う若いカップルの横を通ると、なんだか新鮮だ。
ぴったり密着しないから、長続きしているのかもしれない。
俺と彼女の距離。
このままでいい。
いいのか?
いいのかなぁ。
まぁ、いいか。
いいか………?
いいか。
うん。
………うん。
うん?
うん。
う ん。
うん。
………い
いやちょっと待って
「なに?やっぱガチャガチャする?」
いやちがっ……
「気になるの、あったんでしょ」
にやり。と笑う。
いつものえくぼ。
「はいよ。戻ろ」
……はい。
仕方がないなぁと笑う、
その背中についていく。
やっぱり、もうちょいだけ、
待ってて。
待っててもらって、いいかなぁ。
いい………のかなぁ。
☆ヘッダー写真、お借りしました。ありがとうございます。
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