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いつか、あなたの一番が私ではなくなっても、私の一番は永遠に捧ぐ

ベッドに寝かせて布団と毛布を掛けて、二人の娘の間に滑り込む。
キャッキャと笑う娘達が落ち着くように、静かにお喋りをするのが、私の至福の時間。

「バンソーコーもう無いよ」
妹に引っかかれて怪我をして、絆創膏を自分で貼ってきた長女が言う。
「そう?茶色いやつは、まだいっぱいあるんじゃない?」
「あかのやつがない」
「キティちゃんの、今度買っておくね」

次女が「すーちゃんは、どこも ちー でてなーい!!」
笑っちゃう。

クローゼットのドアの隙間に挟んで、割れちゃった長女の足の爪。
故意では無かったけれど、その割れた爪を踏んで、完全に剥がしてしまったのは次女。

先に意地悪したのは長女だったけれど、ヒートアップして、引っ掻き傷をつけてしまったのも次女。

「ゆーちゃんの怪我は、すーちゃんが作ったんだよ」と言うと、次女も分かって笑っている。

試しに…「だから、キティちゃんの絆創膏は、すーちゃんが買ってきて」と言ってみたら、すかさず「やだ!すーちゃん、だって、おかねもってないもん!」だって。

お姉ちゃんに、怪我させないでね。

そんな話をしていたら、長女がおもむろに私を呼ぶ。
「おかあさん」
「ん?なぁに?」
「おかあさん、だいすきだよ」
「あら。ありがとう。おかあさんも、ゆーちゃん大好きだよ」
「ゆーちゃん、おかあさんとけっこんする」

えぇ?それお父さんって言うところだよね。
いや、令和時代っ子の結婚の概念はジェンダーレスなのか。

娘を二人産んだ時点で、その役目は夫のものだと思って、完全に油断していた。イメトレ不足。なんて答えよう。

逡巡したけれど、私が子どもの頃「おとうさんとけっこんする」と言ったら、父は「お父さんの一番はお母さん」と答えていて、子どもながらに悔しさと羨ましさと、将来の結婚への憧れみたいなものが芽生えた気がする。

お母さんが一番。と言ってくれる今は、本当に宝物。

肯定も、否定も出来ず、事実だけを伝えてみた。
「お母さんは、お父さんと結婚してるんだよ」

沈黙に包まれる。
次女も眠そうにゴロゴロしていて、私達の会話に興味は無さそう。
あれ?なんで何も言わないの?と思って、隣を見ると、長女は布団を頭まで被って静かに泣いていた。

3歳児の『結婚』舐めてた。
「お母さんと結婚する」と言った次の日には「お父さんと結婚する」、「〇〇君と結婚する」って、どうせ対象なんてコロコロ変わるんだろう、一人に限らず何人でも結婚出来ると思ってるんじゃないかな、ぐらいに思っていた。

「ゆーちゃん、ゆーちゃん」と声を掛けて撫でると、布団の中から小さな声がした。
「だって、おかあさんとけっこんできないじゃん」

「お父さんと、お母さんが結婚したから、ゆーちゃんとすーちゃんが産まれたんだよ」と言っても、不満げ。

「いつか、大人になったら、ゆーちゃんにはお母さん以上に大好きな人出来て、その人と結婚出来たら良いね」と言うと、「そんなひと、いない!」と怒られた。

あぁ。そらそうか。
大好きな人に告白したら「自分にはもう既に大事な人が居る。だから君にはもっと相応しい人がいるだろう」なんて上から言われても。デスヨネ。

本人が真剣だからこそ『分かった。大人になったら結婚しようね』とは、私は言ってあげられない。

「お母さんとゆーちゃんは、結婚しなくても一緒に居られるよ」
「お母さんは、ゆーちゃんが他の人と結婚しちゃっても、ずーっとずーっと大好きだよ」

長女に愛を囁く私の背中側で、次女がヤキモチをやいてドタバタし始めた。
さっきまで、眠そうだったのに!!

二人をいっぺんにぎゅうと抱いて「ゆーちゃんとすーちゃんはお母さんの宝物」

涙でキラキラ光る睫毛を上下させながら長女が言う。
「ゆーちゃんが、おかあさんのいちばんになりたかった」
私は大袈裟に驚いた顔をして、娘達を笑わす。
「知らなかったの?ゆーちゃんは、お母さんの、一番目の宝物だよ」
ふぐ。と怒る次女。
「すーちゃんは、お母さんのところに二番目に来てくれた、大事な大事な宝物」

いつか。アナタ達の『一番』がお母さんじゃなくなっても、お母さんの『本当の一番』はアナタ達だよ。

長女は私の左手をギュッと握り締め
次女は私の右腕を身体全体で抱き締めて

おやすみなさい。


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朝、目が覚めたら、夫にピッタリくっついて長女、寝てたけどね!!!!

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