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あんたのママじゃないのに、私は弁当を作っていた

結婚しているわけでもないのに、あなたのママでもないのに、私はあなたのお弁当を作っていた。

なんの気無しに「夕飯作るついでに、お弁当でも作ろうか?」と提案したのが運の尽き、いつしか「なんで今日は弁当ないの?」「わざわざお弁当箱を買ったのに、最近弁当作ってくれなくない?笑」とまで言うようになってしまった。

私は料理が好きだから、料理自体はまったく苦じゃなかったんだけど、人から強制されて自分の好きなことがタスクになってしまうのは違うんだなぁと気づいた。

朝、仕事へ行く前にリュックをゴソゴソと漁りながら昨日のお弁当箱を見つけて「あっ…忘れてた〜…」なんて白々しくシンクに置いて、ごめんねとかも無いまま、当たり前のように私は自分の作った弁当の亡骸を洗っていた。

「米が足りなくて、結局パン買っちゃった」「あのおかず何か分かんなくて怖かった」「開けたら蓋に海苔がついた」「おかずいっぱいあるから、白ごはんのほうが嬉しかった」とか、ネガティブなフィードバックはよこすくせに、肝心な言葉は一つもくれなかった。

いつも家で「美味しい〜」って言ってた、そのご飯食べマインドはどこに置いてきたんだよ。まあ、ご飯が当たり前のように出てくることに慣れてきた終盤には「美味しい」の一言すらなかったけど。

「ふぅん、美味しいね。こういうの」って食レポで、どの身内が喜ぶんだよ。身内にこそちゃんとしなよ。

別にいいよ、言葉が欲しかったわけじゃないし。だけど、だったらせめて美味しそうに食べてくれたら嬉しかったのに。自分が思っているより、自分の感情って伝わらないよ。

でも、そういうもんだと思っていた。私の“弁当作りスキル”が足りなかったのであって、私はもっと頑張らなければいけないのだと思った。

だから私は、なるべくお米をぎゅうぎゅうに詰めて、おかずは「唐揚げ」「具がいっぱい入った卵焼き」「味が濃い副菜」とか、分かりやすくお米が進むものを入れなければいけないのだと理解した。

たまにはこういうのも嬉しいのかな、と思って少し時間をかけて作った炊き込みご飯やオムライスはお弁当だと喜ばれないことが分かったし、なんかもう、バカみたいなご飯をつくればいいんでしょって思って脳死させてた。

脳死させるのは、人間を麻痺させるだけに過ぎなかったんだ、あくまでも麻痺だったんだなぁ、と今になっては思うけど、ポケモンも然り、まひ状態の生き物はまともな対応ができない。

仕事が終わってクタクタのまま、彼のためだと思って作っていたご飯は、彼のためでもなんでもなくて、彼に必要とされている自分がいるのだと思い込むために作っていたのかもしれない。

もしくは、誰かの役に立っていないと自分の役割を見いだせないという、私自身の枯渇した愛情の問題なのかもしれないけど。正直、今となってはどっちでもいいけどね。もうとっくの過去のことだから。

他人のせいで、という言い方はあまりにも他責すぎるかもしれないけれど、他人の嫌な影響のせいで自分の「好きなこと」を嫌いになるのは嫌だ。

「音楽が好きです」って言ったら、「どんな音楽聞くの? 俺も好きだよそのバンド! え? ……このファーストアルバム聞いてないの? これが一番傑作なのに?笑」って言われるのとおんなじ、あの気持ち。

好きなものを好きって言うのがダルくなる。好きなものを他人のマウントで侮辱されるくらいなら、私がわざわざ「好き」って言わないほうがいいんじゃないかっていう、それとおんなじような気持ち。

極論を言えば、喜んでほしかっただけなのに、すこしでも何かに対して「良いな」って感じてほしかっただけなのに、なんかどうもうまくいかなかった。

会話がしたかっただけだった。みんなとみんな、そういう些細な会話ってできるもんだと思ってたんだけど、そうじゃない人が余裕で居るんだなってことに気づけたから、その固定概念を覆してくれてありがとう。

だって、だからこそ、何も考えずに会話できる人がどれだけ貴重なのかが分かったから。語彙力のない喧嘩みたいなもので、私に勉強させてくれてありがとうね。

私は私と仲良くしてくれる人だけを大事にしたいし、本当に好きな人がしたことは大げさに大事にするし、優しい友だちのことをすごく大切にしたいと思っているから、一生そうやって作ってもらったお弁当すら洗えないまま、誰かの優しさをお金でしか返してあげられないような人のまま居ればいいと思うよ、あなたは。

クリスマスプレゼントとか誕生日とか、節目を大事にしてくれていたけど、それも嬉しかったけど、それよりも、毎日「ありがとう、美味しかったよ」って言ってくれていたほうが私にとっては幾分大事だった記憶があるよ。

ある程度お金がないと手に入れられない幸せってあるけど、ちょっとお金と年功に甘えすぎていたと思うよ。これは単なる私のレビューだけどね。まぁ、たぶん私みたいな若い女が言っても、あんたはなんにも聞かないんだろうけどね。

「なんでそんな嫌味な言い方をするんだ」って思われるのかもしれないけど、それは、本当に些細な報いだよ。これの10分の1も私は言わなかったから、諦めてたから、言っても分かんないでしょ。

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