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ADE:抗体依存性感染増強

今日は巷でも話題になる事がある抗体依存性感染増強について簡単に浚っておこう。ADEという略称で聞く事が多いと思うが、全て書くとAntibody-dependent enhancementである。直訳すると「抗体依存性増強」となるし、人によっては色んな訳し方をしたりする事もあるが、文脈において意味が通れば訳は何でも良いと思う。意図する内容は「本来感染防御に働くべき抗体によって、逆に感染が促進される」という意味なので、抗体依存性感染増強という訳は最適であろう。

古典的にADEとは抗体によって免疫細胞へのウイルス取り込みが促進される現象の事を指す。また、そのメカニズム的に、ADEは病原体の中でも「ウイルス」に関して懸念される現象である。つまり、ウイルスとある種の抗体が結合した事が原因となって免疫細胞への侵入が促進され、ウイルス粒子が複製されてしまう現象である。

まず、基礎知識として、抗体と免疫細胞の関係を説明しておこう。そもそも「抗体」はどの様にして外来抗原を排除するのか。その機序はいくつかあるが、例えば機能的なたんぱく質に結合してその働きを阻害したり、あるいは「補体」と呼ばれるたんぱく質を活性化して、抗体が結合した対象を殺したりという機序がある。その機序の一つに、「Fc受容体を介した食作用の促進」というものがある。Fc受容体というのは、免疫細胞の表面に出ている「抗体に対する受容体」である。抗体が何かの異物を認識し、結合して「抗原と抗体の複合体」を作る。そして、抗体の一部が、Fc受容体に認識されると、マクロファージなどの自然免疫細胞がその抗体ごと異物を細胞内に取り込んで処理する。要は、抗体を目印にして、異物を貪食し、排除するという機構が備わっているのだ。そして、このメカニズムがADEと深く関係している。

ADEを引き起こす条件が整った抗ウイルス抗体は、貪食細胞のFcγ受容体に結合した後に、ウイルスとしての機能を維持したまま、細胞内に取り込まれる。本来は異物排除のための機構が、ウイルスの細胞内侵入を助けるという働きをしてしまうのだ。これは「他の細胞の力を借りて増殖する」というウイルスの性質ならではの現象であり、非常に厄介な問題となる事が多いのだ。

ADEを引き起こす抗体の条件などは議論があるが、一般的には親和性の弱い抗体がADEを引き起こすと言われている。(※因みに、日本国内では阪大の論文によって、異なる機序のADE抗体ばかりが注目されているが、これはむしろADEとしては特殊な話になる。これに関しては、また別個に解説を加えよう。)

一方で、ADEを起こすウイルス側の特徴としては、機序からの必然として「免疫細胞で複製ができる」という特徴や、「取り込まれた後の生存性」などが関わっている。この性質を持つウイルスは一本鎖RNAウイルスに多いようで、デングウイルス、ジカウイルス、新型を含む所謂コロナウイルス全般は典型的なADEの懸念があるウイルスである。

この現象は、同じウイルスに対する「抗体」が存在する場合に引き起こされるため、2回目の感染時に問題となるだけでなく、ワクチン開発においても重要な課題となる。事実として、SARSなどの(旧型)コロナウイルスやRSウイルス、デング熱ウイルスを標的とした一部のワクチン候補はADEを誘発した経緯がある。ワクチン開発においても、常にこの点を留意しなければならない。

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