11 複数国籍の容認を
高校3年生の阿香は日本生まれ、ずっと日本で暮らしています。両親は中国籍で、阿香も中国籍。親とは中国語で話すけれど、日本語のほうが楽だし、音楽が好きでJ-POPもカラオケでよく歌います。16歳になるとき、学校を休んで親と一緒に入管に行き、「在留カード」を受け取りました。
クラスメイトの隆志は韓国生まれ。両親の仕事の都合で韓国で暮らしていましたが、2年前に日本に移りました。国籍は3人とも日本国籍。韓国語ネイティブで、日本語は日常会話ができる程度、漢字はあまりわかりません。先月18歳になったとき、担任の先生から「選挙でちゃんと投票しようね」と言われました。
別のクラスメイトのマリアは、母がフィリピン国籍で、父が日本国籍。フィリピン生まれのマリアの国籍はもともとフィリピンでしたが、日本に来てからいろいろ手続きをして、つい数カ月前に日本国籍を取得しました。
▶国籍は人間がつくり出した制度
日本国憲法第10条に「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」とあり、該当するのが国籍法です。その第4条には「日本国民でない者(以下「外国人」という。)」という表記があります。つまり法制度上は、日本国民=日本国籍を持つ者、外国人=日本国籍を持たない者と区別されています。ですので、日本生まれ、日本語ネイティブの阿香は「外国人」、外国生まれで外国語ネイティブの隆志は「日本国民」になります。またマリアは、昔は「外国人」で今は「日本国民」です。人間は変わらないのに、国民であるかどうかは変わるのです。なぜなら国籍は人間がつくり出した制度ですから。
日本の国籍法は、両親のいずれかが日本国籍ならば子も日本国籍とされています(第2条)。これを「血統主義」と言います。一方、米国のように、国内で出まれた者に国籍を与える「出生地主義」の国もあります。もしも日本が出生地主義をとっていたら、阿香は日本国籍を持ち、隆志と同じように選挙で投票することができたのです。このように国籍法は国によって大きく変わりますし、両親の国籍や出生地など複数の国の法律が関係する場合など、非常に複雑で、問題が生じやすいのです。
日本国籍がないと、在留資格が必要、退去強制の対象になる、在留カードの常時携帯義務、日本に入国するとき指紋と顔写真がとられる、就けない公務員職が多い、参政権がないなど―ここではすべて挙げられないほど多くの制約と義務が生じます。
▶国籍に翻弄される人たち
戦前、日本の植民地だった朝鮮と台湾の人たちは強制的に「日本国民」とされましたが、1952年に法務省の通達一つで今度は「外国人」となりました。また、1985年以前は、子どもは父親の国籍を受け継ぐというジェンダー不平等な国籍制度でした。これらは、国籍が政府によって恣意的に操作され、それにより人びとの生活権が大きく脅かされることを象徴しています。
また無国籍の人たちもいます。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、世界で1200万人以上が無国籍の影響をうけていると言っています。日本にも、わかっているだけで627人(2020年末在留外国人統計)います。無国籍の人たちは旅券を持つことも難しく、いっそう無権利の状態に置かれています。
▶国籍を自己決定できる世の中に複数国籍の積極的容認を
国籍は誰のためのものでしょうか?残念ながら、これまでは「国家のため」でした。でも、同じ生活共同体にいる人びとが国籍の違いにより線引きされ、異なる処遇を受けるというのは不自然ではないでしょうか。理想の答えは「個人のため」であるはずです。そのためには国籍の取得・変更・喪失について自己決定度が高い制度設計が求められます。
日本でまずできることとしては、複数国籍を積極的に容認することが挙げられます。現在は日本籍と外国籍の親を持つ子どもに二重国籍状態が認められていますが、日本籍/外国籍を取得した場合も、外国籍/日本国籍を維持できるようにするなど、国籍法の改正が行なわれるべきです。出身地や居住地、両親のルーツもますます多様になっていくなか、国籍という制度を続ける限りは、複数国籍を認めることが不可欠です。
(画像提供:金明和)
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