03 技能実習制度の廃止、技能実習生の保護と救済を
カンボジアから技能実習生としてやってきたルンは、職場で毎日、恐怖に震えていました。日本人同僚たちから、「日本語で話せ!」、「お前は使えないな!」と毎日のように罵声を浴びせられ、工具が投げつけられることもありました。
……こんなはずじゃなかった。国を出るときに借金したが、日本で稼げるという約束だった。仕事は建設の型枠工と聞いていたが、この1年間、型枠に触ったこともなかった。それでも型枠の「基礎2級」試験は通った。答を事前に教えてもらっていたから。3年間働いて借金を返し、国の家族と新しい生活を始める計画だった。だから毎日の暴力にもがまんしてきた……。
しかしある日、ルンはいきなりハンマーで殴りつけられ、ヘルメットを割られました。翌日からルンは職場に行けなくなり、言葉も出なくなってしまいました。職場では社長も先輩も、また監理団体の通訳も助けてくれませんでした。知人の紹介で労働組合にたどり着き、メンタルヘルスの労災申請をしました。認定されるまでの間に、同じひどい目にあったベトナムや中国からの技能実習生とも出会いました。ルンは言葉が出るようになり、権利を訴えることができるようになりました。半年後、ルンは労災認定をされ、今は帰国して治療を続けています。
▶「適正化」ではなく制度の速やかなる廃止を
技能実習制度は創設当初から、最低賃金以下の給与と残業代(時給300円!)、給与からの不正控除、長時間労働、飛ばし(契約とは別の職種で働かせる)、労災隠し、暴行、セクハラ、外出や通信の禁止や制限、強制帰国(実習生を中途で暴力的に帰国させる)などの人権侵害行為が続いています。こうした奴隷労働の実態がメディアで明るみに出たのが、1998年のロジスティック協同組合事件でした(労働者に強制貯金をさせ、協同組合がこの貯金を使い込んだあげく、経営破綻)。これ以後、技能実習生の苦境や実態が報道されるようになり、国内外から批判を浴び続けています。
それにもかかわらず、近年は、震災復興とオリンピック・パラリンピック開催と構造的な人手不足を背景に、建設業の受け入れが増大するにつれ(図表6)、暴力事件が目立つ上、福島での「除染」労働の実態や、「中絶か帰国か」の選択を迫られる女性技能実習生の実態も発覚しています。
2009年入管法改定や2017年技能実習法の施行を経ても、技能実習制度における人権侵害、労働法違反、不正行為はあとを絶ちません。この制度は、国際貢献を掲げながらも、偽装した「外国人労働者受け入れ制度」であることは明らかであり、制度そのものの構造が人身売買、奴隷労働の温床となっています。さらに、2018年度に摘発された日産、三菱、日立など大企業での常態化した不正行為は、技能実習制度がいまや零細・小企業での労働問題だけではなく、日本の産業全体のモラルハザード(企業倫理の欠如)を引き起こしていることを示しています。技能実習制度が民主主義を壊しています。国連の「移住者の人権に関する特別報告者」が技能実習制度を「停止し、雇用制度に変更」と勧告しているように、速やかに廃止すべきです。
▶技能実習生の保護と救済を
頻発する労働問題・人権侵害行為を受けた技能実習生に対する権利救済と保護は、急務の課題です。2017年に技能実習生の権利を守るべく設立された「外国人技能実習機構(OTIT)」の機能と権限の強化がまず必要です。また、被害者である技能実習生らの権利主張へのアクセス確保が必要です。具体的には、①技能実習生の救済機関、労働組合、NGOへの多言語アクセスと緊急避難先(シェルター)を保障すること、②妊娠・出産や病気などの際の権利保障の周知を入国時におこなうこと、③賃金未払いは、監理団体の責任も大きいことから、受け入れ企業が支払わない・支払えない状況にある時は「仮払い」するなど、「監理団体の被害者救済義務」を明文化して国が補償義務を負うこと、④不正行為に直面した技能実習生がその場から逃げることができるよう、職場移動の権利を実質的に保障する制度とすること(移動する期間の、安定的な在留資格付与と雇用保険の休業手当給付システムの整備は、現行法で充分できます)、さらに被害者救済として在留資格変更を可能にすること―です。
そして、奴隷労働の要因の一つである「前借金」をなくすことが絶対に必要です。送り出し機関からの不当な借金請求をなくすことは、技能実習生が安心して働き、暮らせるだけでなく、安全に帰国できる前提でもあるからです。
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