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国税徴収法アラカルト(5)〜滞納処分に進まないようにまず検討しよう③「換価の猶予制度」〜

前回においては、国税通則法第46条に規定する納税猶予制度について、見てきたところです。

連載タイトルが、国税徴収法アラカルトなのに、なかなか国税徴収法に関する規定が出てきていませんでしたが、ここでようやく登場になります。
今回は、その国税徴収法第151条に規定されている換価猶予制度について、見ていきたいと思います。

国税徴収法第151条の2
税務署長は、前条の規定によるほか、滞納者がその国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、その国税の納期限(延納又は物納の許可の取消しがあった場合には、その取消しに係る書面が発せられた日)から六月以内にされたその者の申請に基づき、一年以内の期間に限り、その納付すべき国税(国税通則法第四十六条第一項から第三項まで(納税の猶予の要件等)の規定の適用を受けているものを除く。)につき滞納処分による財産の換価を猶予することができる。

まず、この条文において、換価の猶予の対象となる者が、「滞納者」と記されている点は、注目に値します。

前回取り上げた納税の猶予の対象となる者が、「納税者」と記されている点で異なります。

換価の猶予が、徴収法規定で、納税の猶予が、通則法規定であることも、対象者の呼び方が異なっている一因としてあります。

しかし、本質的には、納税の猶予が、まだ滞納状態にない者の「納税履行」を猶予することを主眼としているのに対し、換価の猶予は、すでに滞納状態にある者の「所有財産の換価」することを猶予することに主眼を置いた規定であることがわかると思います。

ところが、この換価の猶予、実務的には、適用対象が、滞納者と規定されてるのにも関わらず、換価の猶予の申請手続は、滞納者でない段階から可能とする運用がなされているようです。

先に掲げた条文の中で「滞納者がその国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合」という適用要件が記されていますが、この要件に該当する「見込み」がある段階で、申請が可能となっています。

実は、この換価の猶予は、平成26年の税制改正前は、「申請」できるものでなく、税務署長等の「職権」のもとの裁量にのみでしか可能とされなかったものですが、改正により、納税者からの「申請」も可能となった経緯があります。
この辺りは、非常に運用がしやすくなり、大いに評価できるものであると
考えます。

もう一つ、この条文で、特徴的な表現があります。
それがもう一つの適用要件である「その者が納税について誠実な意思を有すると認められるとき」についてです。

私が、税理士受験生時代に、国税徴収法を教えていただいた某先生が「その人がつぶらな瞳を有していたかとかは、ここでいう誠実な意思とは関係ありません!」と冗談をおっしゃられていたのが非常に印象的ですが、この「誠実な意思」という抽象的な表現をどう具体的にとらえるか、が問題となると思います。

これについては、中山裕嗣氏著「徴収・滞納処分で困ったときの解決のヒント」の49ページに、この「誠実な意思」の具体例が、以下の①~③という形で記されております。

① 従来において期限内納税を履行していたかどうか
② 過去に納税の猶予または換価の猶予を受けた場合において、確実に分割納付を履行していたかどうか
③ 滞納処分の早期完納に向けて、経費の削減、借入金の返済額の減額、資金調達等の努力を適切に行っているかどうか

このように、「誠実な意思」とは、申請する滞納者の「印象」を表すものではなく、その者の「実績」に着目して判断されていることがわかります。

そして、この申請が認められると、原則1年間、納税が猶予されるとともに、その間は滞納者の所有する財産が換価(売却処分)されることも据え置かれる形になります。

なお、この申請は、条文中の通り、「その国税の納期限から6月以内」になされなければなりません。

もし、この期限を過ぎても、従来から存在する「税務署長の職権による換価の猶予」が認められる可能性もありますが、先にお話しした通り、税制改正により、使い勝手の良くなった制度でありますので、申請期限をしっかり意識したうえで、確実に適用を受けていきたいところです。

しかも、先にも触れました通り、実務上は、滞納者となる前の、納税が厳しいと予想される段階からの申請が可能ですので、なおさら早め早めの申請が望ましいと思われます。




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