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選び選ばれ

「あー!!くっそなんでES提出期限ギリに出すんだよ。」

会議室で1人天を仰ぎながらESを確認する男。2,3日剃ってないだろう髭、目の下にはびっちりとクマができており、実年齢より老けて見えてしまう。

上司:やぁやぁ、毎年毎年ご苦労だね。松田◯◯係長。

◯◯:部長、嫌味ですか?ES外注せずに自分で読んで全員と面接するって前時代の採用方法取ってて。

上司:逆だよ。君だからこんな無茶ができるんだ。

◯◯:てことは、次の期で俺は営業戻れるんすよね?

上司:いーや、次は採用課の課長だね。

◯◯:はぁ。

気のない返事で返す。

上司:そうだ、君は最近説明会だとかなんだとかで会社にいなかったから知らないと思うけど今度君に部下をつけるから。

◯◯:採用PL1人で動くと仮定して組んでるんですが?

上司:決まったことだから。もう呼んでるし。

◯◯:わかりましたよ…。で、誰です?

上司:藤吉さーん、入って。


ガチャ…。

藤吉:藤吉夏鈴と申します…。

第一印象は暗い。声も小さいなと思いながら

◯◯:松田◯◯だ、緊張せずに頑張ろう。

上司:じゃあ、後は若い2人でよろしく~

でっぷりと出た腹を撫でながら部屋を出ていった。

◯◯:藤吉さん、コーヒー飲む?

藤吉:松田◯◯…。☆☆化粧品に20年新卒で採用。営業第二課に配属後最速で主任、係長に昇進。22年9月から人事部採用課に異動…。

手元のタブレットを操作しながら独り言をつぶやく。

◯◯:データじゃ、人はわかんねぇよ。

手元のタブレットを取り上げて椅子に座らせる。

藤吉:データは嘘つきません。

◯◯:数字とデータは嘘つかないね、けど信頼したら取り憑かれる。

藤吉:取り憑かれてどうなるんですか?

◯◯:また、今度ね。

藤吉:気になります。

腕を掴む。

◯◯:…人を信じれなくなるんだ。

藤吉:人は裏切ります。

◯◯:人は裏切る。それは動かない。

藤吉:じゃあ数字やデータを使えば…。

◯◯:藤吉夏鈴さん、21年新卒。開発部に配属。そして24年から人事に異動。データ上はこれ。

◯◯:でも、うちのエース商品の下地と洗顔。開発したの藤吉さんでしょ。

藤吉:なんで?

◯◯:俺、腐っても営業だったの。外回り先にサンプル投げた時にさ

◯◯:うちの新商品なんすよね、これ。

取引:☆☆さんの新商品、ターゲット層変えたの?

◯◯:いつだって全年代対象ですよ。

取引:いやぁ、◯◯さんは上手いね。

◯◯:まぁ、その時は適当に流してたんだけど。気になって調べてみたら新卒で開発部に入った子が居るって聞いてさ

◯◯:開発の同期に聞いたらあーら不思議。

◯◯:新卒で試しにやらして見たらいい商品作っちゃってあのハ、開発部部長に手柄取られた子が居るって。

◯◯:それ、藤吉さんなんでしょ。

話し終えた時、藤吉は涙を流していた。

◯◯:うぇ、うそ、ごめん!!

藤吉:ちゃんと…わかってくれる人いた…。

◯◯:あー…。

藤吉:誰も庇ってくれなくて…辛くて…。

◯◯:開発は良くも悪くも治外法権だったからなぁ。

藤吉:優秀な先輩は皆ヘッドハンティングされて行ってて…。最後まで庇ってくれてた渡邉さんも…。

◯◯:あー、理佐な。辞めたなぁ。

藤吉:え?

◯◯:藤吉さんの話聞いたの理佐から聞いたから。めっちゃ愛でられてたんでしょ。

藤吉:はい、ありがたいことに。

◯◯:まぁ、なんとなく想像だけどその後の顛末は人事にハラスメント関係で相談。

◯◯:とりあえず人事に異動。でもハラスメントで上がったやつを引き取る部署はないから俺のとこってことでしょ。

藤吉:はい…。

◯◯:データだけじゃこんな事まで知れないでしょ。

藤吉:怖くないんですか?

◯◯:怖いよ。だからこそ準備する。

藤吉:準備?

◯◯:そう、信じる準備。

藤吉:信じる…準備。

◯◯:それに俺達が関わるのは未来の敵かもしれないが今のところはうちに来たいっていう味方だからな。

藤吉:…ほんと、理佐さんの言う通りの方だ…。

◯◯:なんか言った?

藤吉:いえ…頑張ります!

そこから2人は色んな大学生のESをみて書類通過者を選定。

面接に挑んだ。

◯◯:藤吉さん、おはよう。

髭はそり、髪もセットし、スーツもプレスのかかったものをきちんと着こなす様は藤吉を緊張させる。

藤吉:おはようございます…!

◯◯:さぁ、今日から面接だ…。

コンコン…。

◯◯:…どうぞ

藤吉:終わったぁぁ…。

◯◯:お疲れ様、どうだった?面接。

藤吉:正直覚えていなくて…。

◯◯:そうか。飯でも行くか?

藤吉:お供します…。

◯◯達は会社から少し離れた個室バルにいた。

◯◯:じゃあかんぱーい

2人のジョッキが重なり合う。

20分後…。

藤吉:聞いてますかぁ?!面接の時のあの子知ったかぶりすごいんですよ!!肌に薬品じゃぶじゃぶつけて良いことなんてない!!

◯◯:(うわぁ…めんどくせぇ)おうおう、ほら飲めよ

空のグラスを新しいのと交換する。

藤吉:…でも、あんな風に熱く語れたの良いなぁ。

◯◯:その感覚良いんじゃないか?

◯◯:その子のこと見守りてぇって思ったのなら今日面接同席させてよかったよ。

藤吉:…◯◯さんって、理佐さんとデキてますか?

◯◯:はぁ?なんでそーなるんだよ

藤吉:だって…理佐さんから言われたんですよ。

2021年5月

理佐:夏鈴ちゃーん、1回お試しに商品開発やってみない?

藤吉:私が?

理佐:うん!

藤吉:そこから、毎日業務終わりに2人で製品開発してました。

藤吉:ほんと、毎日終電まで。

◯◯:うん

藤吉:ある時聞いたんです、なんで私にそんなに構ってくれるのか。

藤吉:そしたら…◯◯さんと同じこと言われました。

藤吉:見守りたいって…。

◯◯:ふーん

藤吉:なら最後まで見守ってよ!!

机に突っ伏す。

◯◯:1人にできるから、あいつは勝負しに行ったんだろ?

◯◯:味方はいる。少なくともここに1人とあともう1人な…。

突っ伏した頭を撫でる。

起き上がる藤吉、その顔はアルコールによるものかなんなのかわからないまま夢の世界へ落ちていった…。


fin









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