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「わざわざ」という渦。

30年来、東京と長野県蓼科の2拠点生活だったけれど(と言うより、東京に暮らしつつ週末やまとまった時間ができた時に蓼科に行くが正確)、去年の夏の終わりに、思い切って東京の引き払い蓼科に腰を据えた。蓼科から、仕事があれば東京でのミーティングにも地域での撮影にも出かけるけれど、ここにいる限りたっぷり時間もあるし、「丁寧に暮らす」ことを大切にしている。となると、なによりだいじなのは食。野菜・肉・調味料・乾物・パンそして酒など、せっかくなら地元のうまいもの・いいものに出会いたいと思いながら、日々暮らしている。

数ヶ月前のこと。東御市(蓼科からは車で小1時間)の古民家カフェでお茶したら、ショーケースに並んだ地元の食品やパンやケーキのなかに「イマイ醤油」なるものを見つけた。その醤油の、あまりにも普通な佇まいがかえって気になって、さっそく購入。ちょうど、手頃な値段で地元醸造所のうまい醤油がないものか?と考えていたところだった。

これはうまい!と思った。特別ではないが日常使いには十分、いやそれ以上だし、色がきれいであっさりした味だから薄口醤油の代用にもなる。自ずと使用頻度が高くなり、あっという間に使い切った。今度は大瓶を購入しよう。だけど、同じ長野県なのに(イマイ醤油は佐久の醸造所・酢屋茂製)、諏訪地方ではまったく見かけない。酢屋茂さんに電話を入れてみたけれど、やはり他のところには卸していないようだった。では、ネットで買える方法はないかと探っていたら「わざわざ」というショップに行き当たった。それが、ぼくとわざわざとの出会いである。どうやら、パンがメインの商材らしい。わざわざのネットには、お酢や油、ハムソーセージや調味料、以前から好きだったメーカーや気になる製品が並んでいた。調理道具のセレクトも、まったくぼくの好み。なんだ、ここは?このセレクトは?

ここまでは長い前置き。いきなり話が飛ぶけれど、先日(6月20日)わざわざが4月末に立ち上げた「よき生活研究所」で、代表取締役の平田はる香さんとふたりでお昼ご飯をつくった。隣のわざマート(今年初めにスタートしたパンと日用品の店わざわざのコンビニ版)で「あ、茶碗蒸しなんかどうですか?」とか「この細大根で何かつくろう!」などと言いながら野菜や食材を買い、調理道具がバッチリそろっている「よき生活研究所」で、それぞれ2〜3品調理したのだった。もっとも、料理すること自体は目的ではなく、もっとわざわざと平田さんの思いを知りたかったし、その先に何か一緒にできることがないかという思いもあった。何しろ、「丁寧に暮らすこと」と「よき生活」は、すぐ隣り合わせにあるような気がして。

調理道具のこと、包丁研ぎのこと。出汁の取り方はどうしてる?ミシンはなにがいい? そして、お互いの暮らし方のこと…。軽く飛躍しながら、時には根掘り葉掘り。話の弾むこと弾むこと!クリエイター仲間にも、日常の些細なことで話し出したら止まらなくなる友人がいるけれど、平田さんの場合は、「暮らすこと」「食べること」がそのままビジネスに直結しているし、彼女の価値観や好みは「わざわざ」「わざマート」「よき生活研究所」で表現されているから、楽しいだけではない。雑談のなかにも仕事がある。自分の好みを超えて、どう消費者に支持されるかという視点が入る。でも、それ(暮らしと好みとビジネスの境界の曖昧さ)はある意味とても広告的だし、話しながらぼくの思考にいろんなスイッチが入るのがわかる。時に心地よく、時に鋭く。趣味が合う上に、考え方に親近感を覚える。

また少し話が遡って、平田さんを紹介してくれたのは、出身地である長崎の五島列島を拠点にクリエイティブディレクターの仕事をする中村直史さん(五島列島なかむらただし社)だった。まったく別の件で連絡を取り合っていたのだけれど、「そう言えば、東御市にあるわざわざというショップに行きますよ。今村さんの家からも近いですか?」となった。後日、中村さんに同行してわざわざに行き、そこで代表の平田さんと繋がった。

今度は、話が近未来に飛ぶ。料理をしながら話していたところ、平田さんが来週から宮崎に行くという。よく聞いてみると、なんと平田さんが会いに行くという方は、ある尊敬するクリエイターの先輩がぼくに紹介したいと仰って、まさに日程を調整しようとしている、その人だった。7月後半あたりに宮崎に飛んで、先輩クリエイターが紹介してくれたN氏に会いたいと思っている。「Nさんに今村さんのことも話しておきますね!」って、いやはや、怖いくらいの偶然。いや、もはやこれは必然?

平田さんとわざわざがまんなかにあって、いろんなヒト・いろんなコトがおもしろいように繋がってゆく。偶然のようだけど、最近出たばかりの平田さんの著書『山の上のパン屋に人が集まるわけ』を読んだばかりのぼくにはよくわかる。平田さんの思いを形にしていくスピード感や実行力(経営センスといってもいい)が渦になって、ヒトを、モノを、コトをつないでいくのだろう。いまはその渦に飲み込まれるのが、ちょっと、気持ちいい。


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